聞くだけ番長
職員等研修で聞かれる声
この時期は例年、自治体・民間企業の研修や不特定多数を対象としたセミナーに出講する機会が多く、アンケート結果等を後日いただくことも多々あります。
大半は良いリアクションですが、何度も目にする気になる意見があるのでここで整理しておきたいと思います。
情報量が多すぎ
職員研修・セミナーでは当たり前ですが、自分のプレゼン時間・テーマは事前に決まっています。参加者は多忙な業務のなかで参加する、せっかく参加するのだから多くの「気づき」を得て欲しい、こちらもフィーをいただくからには常に100%のパワーを発揮する。こうした全て条件を整理していけば、限られた時間内にどれだけ濃密な内容を詰め込めるのかが重要であることは自明の理です。
本当はもう少し「掴みのネタ」として、その土地のご当地ネタや少し横道に逸れたエピソードなども挟んでいきたいところですが、本編だけで時間が目一杯なので自己紹介もそこそこに話し始めることになってしまいます。
ひとつずつの事例をもっと掘り下げて欲しい
一般的な90分の講演では約60枚の配付用スライド、投影用は写真・動画や趣旨説明の資料などを合わせて約300枚のスライドを使っています。
「1つの話題は1枚にまとめる」ことを前提とした60枚のスライドと300枚に及ぶ動画・写真等のボリュームを考えたら、ひとつずつ細かく説明している時間はありません。
講演時間の範囲内では「概略」を追いながら、特に気になったことがあれば後段でも記すように「その場で聞けばよい」のです。
スライドで記していること、講演で話す言葉は、その事例の様々なバックボーン・データ・関係者の想いなどのなかから「本当にその場で伝えるべきこと」の本質に絞り、様々な要素を断捨離しながら研ぎ澄ましたものでしかないのです。
稀にコンサル等から「このスライドを使わせて欲しい」という要望もいただきますが、表面的に切り取っただけでは「表層的な概要」しかわからないのでもちろん丁寧にお断りしていますw
うちのまちの答えを教えて欲しい
「うちのまちの答え」は様々な面で無理があります。
まず、「あなたのまち」のことを(はじめてor数回しか訪れていない自分には)あなた以上には絶対に分かりません。
感覚論・経験知・事前に調査したそのまちのデータ等から「このあたりに課題やポテンシャルがありそう」ということは少し見えることもありますが、リアルな実態はそのまちに住んでいる・働いている人たちでなければ掴むことはできません。そのまちに関わる職員がどれだけの熱量・スキル・ネットワークを持っているのかもわかりません。
もうひとつの論点として「答え」はそれ以上にわかりません。
新著「実践!PPP/PFIを成功させる本」でも記しているとおり、「こうすればうまくいく」ことがわかれば、教科書に書いてあれば誰も苦労しません。一方で「これをやったらコケる」という論理(爆弾)は全国のまちで共通しています。
そうはいっても、様々な主体が有機的に、時には非合理的に交わる「まち」のなかでは自分たちらしく試行錯誤していくしかありません。
研修等はきっかけでしかありませんし、「まち」のことを完璧に記したマニュアル・教科書はありません。
言ってることはわかるけど
これがよく言われる「誰かがやってくれる(自分はやらない)問題」です。
こうした意見や感想、気持ちはわからなくもないですがプロとしていかがなものでしょうか。
「なぜこの研修に参加したのか」が問われます。職員研修やセミナーは答えを知る場ではなく「実践のためのきっかけ」に過ぎません。紹介される事例やまちを知ることで、これまでの自分の生活・業務環境では得られなかった視座を得たり、自分の抱えるプロジェクトのヒントを得る場です。
インプット(≒自分の引き出しを増やしたり広くすること)は重要ですが、インプットばかりでは意味がありません。
大切なのは、こうした場に「何のために参加するのか」「実戦に直結する何を得たのか」です。自らがプレーヤーとなろうとしない限り、そもそも研修等に参加する意味はありません。
プレゼンの種類
ここで少し、自分も考えながら使い分けているプレゼンの種類から考えてみたいと思います。
プロポーザルにおけるプレゼン
プロポーザルコンペのプレゼン審査では、事前に企画提案書を行政に提出し、そのなかで重要な部分・コンペティターと差別化が図れるところを中心に「審査員に刺さる」プレゼンを行います。
ポイントは「事前に企画提案書を提出していること(≒そうでないこともありますが、事前に審査員が提案書を読み込んでいること)、自社が勝つこと」です。
自分たちの提案を「その場で100%相手に理解してもらう」ため、わかりやすさ・簡潔さを重視することになります。
事業プレゼン
首長等にこれからやりたいプロジェクトを提案する場合等は、相手にとっても初見となるので「瞬間的に理解できる」よう1枚にまとめ、「やりたいこと」を中心に何のためにやるのか・プロジェクトの与条件・スケジュールなどを説明していくこととなります。
非常に限られた時間(長くても5分以内)で相手に伝えることが求められます。
公務員時代に実施していたFM戦略会議(市長・副市長・教育長と主要な部長の計8名で実施可否のみを判断する会議)ではこの原則に則り、政策判断をするために必要十分な情報だけを資料として掲載し、バックボーンとなるデータ等は手元資料(や添付資料)扱いとしていました。
研修等におけるプレゼン
職員研修・セミナー等では「多くの参加者に対して多くの役に立ちうる情報を提供する」ことが重要です。(特定のテーマで集まるセミナー等も稀にありますが、)基本的には参加者がそれぞれ異なる視点・考え方・ビジネス・立場を持っています。「みんな」に対してではなく、それぞれの参加者に対して「どこか」が刺さる、何かの役に立つことが大切だと考えています。
だからこそ、できるだけ幅広い視点・分野・事例を紹介していきます。資料には必ず出典・URL等を記したり、都合の悪いことでも(現在進行形の支障のありうる場合を除き)「A市」や「ある自治体」ではなく固有名詞で記すようにしています。
同時に具体的に示すことで参加者にもリアリティを持って感じてもらえるよう工夫しています。
上から見下ろしている限りは
上記の例示の事例は「プロポーザルで審査する側」「事業を判断する側」「研修に参加する側」であることを差し引いても、いずれも受動的な姿勢がその共通点です。むしろ、受動的な立ち位置になるからこそ、自分ごととして積極的な姿勢で臨むことが重要です。
プロなんだから
その場で100%わかるようなレベルでは意味がない
せっかく時間を割いてこうした場に参加したのに、「自分が知っていることばかり」「想定の範囲内」「100%咀嚼できること」「国の資料のトレース(を読むだけ)」「オブラートに包んだ優しい表現」だと、安心したり多少の優越感は得られるかもしれませんが、得られるものはほとんどありません。
自分が作成するスライドは1枚であっても、その裏には何十倍ものバックデータ・実際に自分で関わった経験・現場を訪れてわかった感覚・関係者との対話から得られたニュアンスなどが込められています。
「(相当の)刺激を感じること・知らなくてついていけない部分があること・説明が少なくてモヤモヤ感が残ること」が存在して、はじめて参加した意味があると考えています。
資料に書かれていることはベースに過ぎない
稀に「忙しいから資料だけもらっておいて、あとで読んでおくよ」という方がいます。他の方の資料やプレゼンはわかりませんが、少なくとも自分の考え方は「資料_客観的なデータ・写真・論点を整理したもの」「プレゼン_資料に書かれたことの本質・背景・そこから自分なりに感じること・考えて欲しいことを伝えるもの」で、セットだと認識しています。
「授業」ではない
「研修等の場に何時間か座っていて、話を聞いていれば強烈なスキルが手に入り、まちの複雑な課題や自分のやるべきことが簡単に解決できるようになる」という発想でなんとなく聞いているだけでは何も変わりません。
「授業」ではありません。自分たちの経験や抱えている課題、これからやろうとしていること、行動原理や思考回路等と照合しながら聞き、思ったことを何でも「自分の言葉」でメモしまくっていくことが大切です。
研修・セミナーはきっかけでしかない
研修等はきっかけでしかありません。何百回、いろんな研修等に参加しても実践しなければいわゆる「通信教育の黒帯」です。
そして、研修等の効果の消費期限は3日間です。3日以内に「何か」三次元のリアルな世界で行動が起こせなければ、どんなに刺激を受けようが「思い出」にしかなりませんし、1週間・1ヶ月と過ぎていけば内容ではなく研修等に参加したことすら記憶がなくなってしまうでしょう。
研修等で刺激を受けたら、ヒントを得たら、まずは動きましょう。阿南市では実際に研修後、すぐに職員有志によるワーキンググループを立ち上げ、庁舎・科学センター等でのトライアル・サウンディング等に結びつけ、その勢いをベースにESCO、随意契約保証型の民間提案制度等のプロジェクトにつなげています。
わからなかったら聞く
研修等では最後に質疑応答の時間が設けられることが大半ですが、(誰かが口火を切らない限り)質問が出されないこともあります。アンケートで「〇〇がわからなかった」「〇〇をもう少し掘り下げて欲しかった」等を書いても時既に遅しです。
前述のように本編で話せる内容・情報は「断捨離しまくったコアな部分」でしかありません。
恥ずかしがっても全くいいことはありませんし、知っている・わかっているフリをしても何も得られません。
「わからなかったら聞く」、その場のライブ感に溢れた状態で聞くことが一番自分のためになるはずです。(閉会後の名刺交換で鋭く本質的な質問をいただくことも多いですが、せっかく会場全体で共有できる機会があったのに。。。と考えると非常にもったいないです)
自分で調べる
前述のように(少なくとも自分のプレゼンでは)資料に必ず出典・URLを明記するとともに、固有名詞でその事例が何かをわかるようにしています。
ググる一手間をかければ、もどかしかった情報に自力で簡単にアクセスできます。インターネット上の情報ももちろん有効ですが、更に詳しく知りたければ直接その場を訪れることです。二次元の情報では得られない肌感覚が三次元のリアルな世界で得られます。それだけではなく、本当に熱意を持って何かを得ようとすれば関係者に直接話を聞くこともするでしょう。
このような面でも研修等は「きっかけ」でしかないのです。
自分で実践する
研修等は「実践してはじめて価値」になります。
「言うだけ番長」もダメですが「聞くだけ番長」もダメなんです。そういう人たちが何人いてもまちは良くならないだけでなく、害になることすらあります。
大切なのは(研修等をきっかけとして)自分たちらしく「覚悟・決断・行動」を繰り返していくことです。
「聞くだけ番長」撲滅運動
Slido併用
最近、主催したりある程度全体をマネジメントできる研修・セミナー等ではSlidoを活用しています。
参加者がその場で感じた意見・質問をリアルタイムで投稿するとともに、気になったものに「いいね」をすると、それが上位から記されていきます。登壇者・参加者による「質の高いQ &Aセッション」が可能になる仕組みで、会場でも投影しておくことでライブ感がグッと上がります。
「聞くだけ番長」は蚊帳の外になっていきますw
資料は事前に読んでくる≒当日はトークバトルのみ
2023年8月に草加市で開催した「公共FMフェス」は、80名の定員があっという間に満席となり、当日も他では絶対味わえない・再現性のない場となりました。
「包括施設管理業務委託、公共FMの計画と実践、都市経営と公民連携事業」の3テーマを掲げ、全国から第一線で活躍する現役公務員に登壇いただき、テーマごとにSlidoで次々と寄せられるテーマにも対応しながらタイマン形式のトークバトルを繰り広げました。
もちろんシナリオも事前打ち合わせもありません。
次回の公共FMフェスも2023.11.11現在詳細調整中ですが、1月末に開催する予定なのでぜひご参加をお願いします。
敢えて配信なし
毎年実施しているPPP入門講座(日本PFI・PPP協会主催)は、より多くの方に少しでもPPP/PFIの世界の既成概念を変えてほしい、視野を広げて欲しいという思いと、全6回にわたるスケジュールを考慮して(もちろん現場で参加するのが一番ですが)オンラインやアーカイブ配信を実施しています。
一方で2023.11.22に開催する「初めての公共FM入門講座」では、オンライン配信を一切行いません。「現場に来る」の一手間と「肌感覚を感じる」ことを大切にするとともに、Slidoを併用して参加者と空気を共有しながらどこまでも深い世界を創っていきたいからです。
研修等はきっかけでしかない
最後にもう一度繰り返しておきますが、研修等は実践のための「きっかけ」に過ぎないのです。「聞くだけ番長」は意味がありません。
自分(やまちとして)の引き出しを充実させるために研修等から得られる知見は重要ですが、それらをどうアレンジメントして試行錯誤していくか、その覚悟・決断・行動ができる人にこそ研修等が役に立ちます。
お知らせ
実践!PPP/PFIを成功させる本
2023年11月17日に2冊目の単著となる「実践!PPP/PFIを成功させる本」が学陽書房から出版されます。
こちらについては別途、「レビュー書いて超特濃接触サービス」を実施します。(詳細はまちみらい公式ホームページ及び公式noteでご案内します)
既にAmazon等で予約できますので、ご興味ありましたらお買い求めください。
前著「PPP/PFIに取り組むときに最初に読む本」も5刷となっており、多くの方に読んでいただいています。
まちみらい案内
まちみらいでは現場重視・実践至上主義を掲げ自治体の公共施設マネジメント、PPP/PFI、自治体経営、まちづくりのサポートや民間事業者のプロジェクト構築支援などを行っています。
現在、2024年度業務の見積依頼受付中です。
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