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自分ごととして考える_2023秋


「自分ごととして考える」とは

自分たちのまちなんだから

前著「PPP/PFIに取り組むときに最初に読む本」やPPP入門講座でも触れてきたように「自分たちのまちのことは自分たちで考える」、当たり前のようなことだけれど実際の現場では意外とできていない。

常総市では、施設所管課が集まり「自分たちが抱えている課題」と「どうやって解決できるのか」をそれぞれプレゼンし、徹底的なディスカッションをしながら形になりそうなものから事業化していくことを進めAI自動運転パーク、包括施設管理業務委託、(全国初の)トライアル・サウンディング、随意契約保証型の民間提案制度などを事業化していった。
そして、並行して事業化を図っていたアグリサイエンスバレーや、この経験知を元にしたまちなか再生のプロジェクト、DX化などのプロジェクトを次々と展開している。

常総市は決して立地・経済状況等が恵まれていたわけではないどころか、2015年の水害では市域の1/3が水没し、甚大なダメージを受けていた状況であった。
にも関わらず、自分たちに何ができるのか・何をすべきなのかに向き合い「やってから考える(やってからも考えない)」思考回路・行動原理で動いていった。

https://www.city.joso.lg.jp/data/doc/1674176111_doc_6_0.pdf

誰かに丸投げしない

いまだに業界新聞では毎日のように「〇〇駅前活性化ビジョン策定業務委託」、「〇〇市総合計画策定業務委託」、「〇〇施設整備基本計画業務委託」等のコンサル丸投げ業務の記事が多数掲載されている。測量、地質調査などは専門のコンサルに委託する意味があるが、そのまちやプロジェクトの根幹をどうするかの部分を民間に丸投げしてしまって良いわけがない。
自分の人生を委託しないのに、なぜまちのことは丸投げ委託できるのだろうか。そのようなまちに幸せな未来があるわけがない。

人・社会のせいにしない

このような趣旨の説明を事例を交えてセミナー・職員研修等で話すと「でも、うちのまちには〇〇ガー」と全否定する人たちが現れることがある。

まさに「聞くだけ番長」だが、今のそれぞれの立ち位置は与条件でしかない。自分たちの存在意義は「そこから何ができるか」である。政治的な理由などで根本的な軌道修正ができない事業もあることは間違いないが、そうしたなかでも何か抗えること・爪痕を残すことはできるはずだ。
(経済合理性が全くなく、豪華設備に依存したイニシャルコストや更新時の困難さなどを無視したZEB仕様、華美で巨大な庁舎整備事業が進行してしまっていても、保守管理業務を総合管理とすること、余剰スペースを貸付すること、売店のリーシングを地域プレーヤーとしていくことなどはできる。)

人やまちのせいにしても全く生産性はない。今回はプロ意識が欠如した現場と実際にリアルに動くまちを比較しながら改めて「自分ごととして考える」こととは何かを考えたい。

実際のプロ意識が欠如した現場

さすがに生々しいので(通常は全て実名で出すが)名称を伏せて記載する(、ただし文中にヒントがいくつかあるので察しが良い人は気づくはず)。

A自治体

関東の城下町、一大観光地でもあるこのまちでは、過去に随意契約保証型の民間提案制度の構築などでご一緒させていただいた。職員のディスカッションスキルも非常に高く、現在のまちみらいの業務モデルの原点となったまちである。

今年度も総務省の制度で伺うことになったが、ここでの協議案件は城に近接した市民会館跡地の活用事業であった。
担当者は意気揚々と集まった約20名の職員に「どういう場所にしたいか考えよう」と言ったが、内容はザ・市民ワークショップのように「何が欲しいですか」のお花畑・ノーリアリティのものでしかなかった。開始前からこのことに苦言を呈したが、本人は謎の自信を持っているようで全く聞く耳を持たない。もちろん、そのまちのことを決める(結果責任を取る)のはそのまちの人でしかないので、それで良いのだが。。。

検討にあたっても「観光客がターゲットではなく地元の人の憩いの場」、「収益施設も入れるけど基本的にはオープンスペースとして利用」だけでなく、挙げ句の果てに「民設民営で行政は金を出さないけど、基本設計までは行政が行う」「定期借地権をベースに考えているけど、減免は一切考えていない(敷地全体では数百万円/年の地代が想定される)」といった行政のご都合主義満載のものであった。
市民ワークショップは積極的に行うが、(進出意向を持つ)地元プレーヤーによるプラットフォームや自らの営業などは考えていないとのこと。

どこから前述の自信が来ているのかわからないが、この一等地をそのようなハチャメチャな活用をしてしまったら、エリアの価値が下落することは一目瞭然である。(実際には叶わないだろうが)
この担当者の所属する組織は、駅前の一等地にサテライトオフィスとして設置されたもので、最近流行りの「PPP/PFIの相談窓口」となっているところである。
このように「民間は相談があるんだったらここに来たまえ」といった立地が勘違いの元かもしれない。民間事業者と本気で連携したいのだったら、自分たちから企画書を携えて民間の懐に飛び込むのが筋である。

B自治体

数年来、アドバイザー業務で携わっている東北地方の自治体。色々と難儀しながらもいくつかのプロジェクトがやっと形になってきた。
そのようななかでも、最近は協議対象案件があまり出てこなかったり、やる気だけで実施できる小規模なプロジェクトでもいつの間にか検討を止めたり(協議の場に出してこなかったり)となってしまっている。

このような傾向に歯止めをかけるため、後述の宮崎市のように年間のスケジュール(訪問日程)を先行して全てFIXして、このなかで確実に事業化に向けて動いていこうと模索したのだが、直前になって案件がないから等の理由でリスケする実態に陥っている。
真面目なまちであることは間違いないし、真剣に取り組もうとする志は見えるものの、「忙しいから」「新しいことは」等のネガティブマインドがまだ多く残っている。忙しいのはプロとして当たり前、今までのやり方で通用しないからまちが衰退する、だから何かを変えなければいけない。
今できない・やらないことは今後も絶対にやらないし、時間が経過すればするほど取れる選択肢は少なくなっていく。

C自治体

今年度、アドバイザー業務で関わらせていただいたまち。市営住宅の包括管理業務からまち全体へ発展させていくことを事前打合せでも確認しながらスタートしたはずだった。前年度に職員研修もいくつかの階層に向けて実施したこともあり、こちらの考え方・やり方はある程度伝わっているものだと思っていた(ことが甘かったのかもしれない)。

いざ業務が始まってみると、やる気は感じられるがいざとなると、いろんなところで言い訳が出てくる。「自分たちのまちには総括する部署がないから」「事務分掌上、自分の課でやることに無理がある」「首長が判断してくれない」「副市長の頭が硬い」「各課が忙しい」。。。
更にこの時期に老朽化した給食センターで2回連続して異物(ゴキブリ・ナメクジらしきもの)が混入したにも関わらず、ホームページに公表しない・記者会見もなかなか開かれない・方針として給食センターの改築は5年後を目処。。。

そして回数を重ねるごとに案件の熟度、派生が進むだけでなく新規案件が増加して協議時間を物理的に工夫しなければならなくなった宮崎市と対照的に、徐々に離脱者が増え、約40名いたはずだったメンバーは市長プレゼンの段階で一桁まで減少している。もちろん残ったメンバーの提案は一定のグレードとなっていたが、こうした提案でさえ事業化に向けて苦労をしているとのことである。

現在のまちの課題は1947年に施行された(現在もその体系をベースにしている)地方自治法の枠組みやそれに基づく組織体制では全く歯が立たない。まちの課題(やポテンシャル)に対して隙間だらけであり、そこをどう有機的に結びつけていくのかに職員のやるべきこと・クリエイティビティがあるはずだ。

リアルにやると

宮崎市

昨年度の「まちみらいお試し版」を契機に本年度から本格的な業務のはじまった宮崎市。先に全8回のスケジュール・対象課・メンバーを全て決めてしまい、各課は毎回、「前回の振り返り・そこから何をしたか」をベースとしたプレゼンを行い、常総市のような徹底的なディスカッションが繰り広げられている。
毎回の記録を事務局がまとめて関係者にフィードバックすること、2回に1回の割合で市長・副市長へ報告・意見交換すること、毎回何名かと終了後に食事会をして意識合わせをすること等により全体の進行が非常に円滑になっている。

既に様々な部署でトライアル・サウンディングが実施されていたり、市営住宅では空き住戸の目的外使用、(学校の)包括施設管理業務は優先交渉権者の選定、普通財産の包括売却業務委託は契約まで漕ぎ着けている。その他にも子どもの居場所づくりでは民間のコワーキングスペースと連携したプロジェクトが始動するなど、驚くべきスピードでプロジェクトが展開している。

更にこれらの案件に加えて市庁舎の整備、佐土原文化センターなども新規案件として飛び込んできている。こうした形で様々なプロジェクトが進行する一方で、温泉施設・公民館などはプロジェクトとしてなかなか進捗していかない。ただ、「動かない」のではなく「動くなかで諸条件の整理がままならなくて迷走している」のであり、あらゆる方向性を探っているので(このまま粘ればどこかに落としどころが見えてくるはずなので)全く問題はない。

久米島町

人口7,400人の小さな離島で人口減少が進むなかで、海洋深層水を活用したまちの最大の観光資源であるバーデハウスが休止に追い込まれたり、老朽化した給食センターの改築、そもそもの職員のマンパワー不足をどうするか、久米島紬の後継者不足といった課題が様々な分野で山積している。

バーデハウスの再生からスタートした業務であったが、やりはじめるとあらゆる分野が輻輳的に絡み合い、点としてバーデハウスを再生するのでは「まちの課題」に対応できないことが見えてきた。
様々な与条件ややるべきことを整理していくなかで、同時並行的に包括施設管理業務(既に事業化)、学校給食法を根拠法令としない高齢者向けの配食サービスなども提供する島全体の給食センター(優先交渉権者選定済み)などのプロジェクトも実施していくこととなった。

飛行機・フェリーの便数の関係で約100,000人/年の観光客数を大幅に上昇させることは物理的にも不可能であるし、やったところでオーバーツーリズムで自滅することも明白な状況である。となれば、まちの生き残る道として客単価を向上させていく、エリアの価値を上げて町民の生活水準を良くしていくことが選択肢となる。
こうしたことから現在では公共交通、久米島紬なども密接に関連するプロジェクトとして検討している。

阿南市

職員研修でこちらから提示した「研修効果の消費期限の3日以内に何ができるかが勝負」という言葉を信じ、職員有志によるプロジェクトチームを組織して庁舎・科学センター等のトライアル・サウンディングからスタートした。その後も那賀川図書館や科学センター・給食センターのバルクESCO、随意契約保証型の民間提案制度(やマッチングミーティング)など次々と展開している。

表原市長のトップマネジメントとリーダーシップ、職員の地域プレーヤーと連携した積極的な取り組みがプロジェクトのスピード感とボリュームを作り出している。

改めて「自分ごと」として

改めて「自分ごと」として考えることが重要である。
自分が行きたくもないところに「他の誰か」は行かない。
自分の金を使ってやらないことを「人の金」を使ってやってはいけない。ましてや税金を使うのはもってのほかである。
自分がいちばんのヘビーユーザーになる、自分の金を使ってでも実現したいプロジェクトとしていくことが大切である。

「考える」だけでなく「実践する」

自分ごととして「考える」だけではただの意識「だけ」高い系でしかない。

「実践」に結びつけて初めてプロとしての価値がある。
自分たちのまちのことは自分たちで考え、試行錯誤しながらなんとかしていくしかない。他の誰かがやってくれると思っても、誰もやってくれない。
まさに覚悟・決断・行動である。

お知らせ

実践!PPP/PFIを成功させる本

2023年11月17日に2冊目の単著「実践!PPP/PFIを成功させる本」が出版されました。「実践に特化した内容・コラム形式・読み切れるボリューム」の書籍となっています。ぜひご購入ください。
出版記念企画の「レビュー書いて超特濃接触サービス」も絶賛実施中ですので、ぜひこちらにもご応募ください。

PPP/PFIに取り組むときに最初に読む本

2021年に発売した初の単著。2023年11月現在5刷となっており多くの方に読んでいただいています。「実践!PPP/PFIを成功させる本」と合わせて読んでいただくとより理解が深まります。

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まちみらいでは現場重視・実践至上主義を掲げ自治体の公共施設マネジメント、PPP/PFI、自治体経営、まちづくりのサポートや民間事業者のプロジェクト構築支援などを行っています。
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