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情報の非対称性(後編)

前編の概要

公共施設マネジメントに限らず、いろんなことを進めていくうえで「〇〇ガー」と言い訳してやめてしまう場面によく遭遇します。
しかし、その「〇〇ガー」に陥る場合、「情報の非対称性」が発生していて議論にならないことが大半ではないかということです。
しかも、その情報の非対称性を生み出したり拡大させているのは当の本人であり、だからこそ解決の糸口もそこにあるのでは?ということです。

具体的な方法論

「当の本人ができること」こそ、情報の非対称性を生じさせないため重要であると同時に、具体的な方法論は「今すぐ」できることが多いのです。

まちに出る・色んな人と会う

いろんな自治体で「イケてるまちを探す」ワークショップをやってみると、共通してわかるのは「意外と自分のまちのことを知らない」「政策的に金をかけてきたところとイケてるところは全く一致しない」ことです。

イケてるところ探しWS

ここでは、前者の「意外と自分のまちを知らない」ことを取り上げますが、「外のまちを知らないので客観的に自分のまちがわからない」ことが多いのです。(まちで自分の金を散財してプレーヤーと結びつかないことも問題ですがw)

まずは、興味を持った事例があれば直接行くこと、関係者の話を聞いてくることです。更に日常的にいろんなまちに行きながら「思いがけない」偶発的なエリアを探し、そこに飛び込み体験していくことです。

そういう意味でリアルで開催されるセミナーなどには積極的に(オンライン併用のものはできるだけ現地で)参加して、あわせてそのまちや道中の気になる事例を探っていくことです。

遊んでいるように見えるかもしれませんが、「外の世界を知る」ことで自分のキャパを大きくすること、様々な選択肢を持つことが、個人の暗黙知を組織としての共通認識にしたりプロジェクトして具現化していくうえで役に立っていきます。

このあたりは拙著「PPP/PFIに取り組むときに最初に読む本」でも詳しく書いていますので、ご覧ください。

職員研修

自分たちが「こういうプロジェクトやってみたい」と外で感じたら、「あの人ステキだよね」と思ったら、その人を実際に自分のまちへ招いて職員研修を開催し、「自分だけの暗黙知」を組織としての情報にしていきましょう。

公務員時代には5〜6回/年の職員研修を実施していましたが、ただやるのではなくその時機に応じた講師や受講対象者を選定していました。泥臭く愚直に様々なプロジェクトを進めている常総市も同様に職員研修を丁寧に実施しています。

東村山市・南城市・阿南市なども同様ですが、こうした場に職員だけでなく市長や議員も参加していることが大きな特徴です。「相手がわかってくれない」のではなく、「わかってもらえるチャンス」を提供するのでもなく、「一緒に情報を共有する」ことが大切です。

また、アンケートも大切です。公務員時代には毎回定型のフォーマットで自由記入欄も含めたアンケートを実施し、定点観測をすると同時に結果は庁内LANで共有し、ホームページでも公表していました(残念ながら現在、なぜか削除されていますorz)。
徐々に理解が深まってきますし、庁内で誰がネックになりうるのかも見えてきます。同時に、理解してくれない人たちにも「もしかして俺たち少数派?わかってないの自分だけ?」といった思いを抱いてもらうことができます。

庁内報

糀や、Globe Sports Dome、たかたようちえんなどのクリエイティブなプロジェクトを展開する津山市では、つやまFMだよりを毎月発行して庁内LANで配信すると共に庁舎エレベーターに掲示するなど、日常的な情報共有を図っています。

庁内FM新聞「つやまFMだより」。課内の若手メンバーと一緒に毎月編集会議を開き、財産活用課で行なわれている様々な活動をわかりやすくまとめています。「FMやPPPの考え方は、自分たちの部署だけでなく、他の部署にも理解を浸透させることが必要です。庁内全体で同じ目線になることが大切だと考えています」と川口さんは言います。今では、「FM/PPPと言えば財産活用課!」という認知が広がり、何かあるとすぐに相談がある状態になっているそう。


公共R不動産のプロジェクトスタディ_岡山県津山市が実践するファシリティマネジメントと公民連携

非常に地味な活動に見えますが、「あそこが何か変わったことをやっているらしい。。。」という疑念から「なんか、あのプロジェクト面白そうだよね。」「うちのまちにもこんなステキなところができたんだ!」「あれ、〇〇課がやったらしいよ」とポジティブに変わってもらえるチャンスが出てきます。
また、こうしたポジティブでクリエイティブな動きは、やる気のある職員に「あの課で働いてみたい!」という思いを持ってもらえるようになります。
(非公式な情報ですがw)公務員時代にFM推進室が移動希望のトップ3に入っていたことは本当に嬉しいことですね。

広報

「経営者たる行政と消費者たる市民」の違いを明確にする必要性は別のnoteでも書いていますが、そうしたなかでも市民との情報の非対称性が発生しないよう日常的に情報を周知していくことは大切です。
若いリソースを活用した公共施設マネジメントの啓発マンガは(、本来、こうしたプレーヤーになりうる人たちにはまちでリアルに活躍していただいた方が良いですし、行政が直接自分の言葉で言うべきなので)あまり良いと思いませんが、広報やYouTubeなどで発信していくことは重要です。

広報ぬまた_2022年5月号

常総市では市長が主役となり、自らYouTubeでトライアル・サウンディングなどの政策をPRし、阿南市では公共施設マネジメントに特化した外部サイトを作成、沼田市では職員が実践するプロジェクトを中心とした広報を展開しています。

従来のように「財政が厳しいから公共施設を削減します。。。市民の皆様のご理解を。。。」といったネガティブアプローチではなく、「なんのために」公共資産があって「自分たちはどうしていくのか・何をしているのか」を具体的に示していくことが求められています。

メディア

南城市の庁舎におけるトライアル・サウンディングは、職員がまちに出て徹底的な営業活動をしたこともあり、期間中に66者が67事業を展開しました。

実施期間中に地元のテレビ局であるRBCで特集が組まれたことで、これまで届かなかった層にアプローチできただけでなく、「公共資産が楽しい場に生まれ変わる」といったポジティブな形で、行政というフィルターではなく幅広い視聴者へ発信できたのは大きな分岐点になりました。
現在、阿南市でも積極的に地元のケーブルテレビ局と連携しています。このように第三者のマスメディアを活用することで情報の非対称性の予防にもつながります。

また、公共R不動産や日経BP_新・公民連携最前線などの専門的なメディアでプロジェクトなどを解説・紹介してもらうことも関係者の理解を促進していくうえで有効な手段となります。

議会へのアプローチ

前述のとおり職員研修に議員も参加してもらうなどのことはもちろんですが、施政方針や一般報告で検討中のプロジェクトを報告したり、一般質問や委員会での答弁でもさりげなく執行部側からの情報を盛り込んでいくことも、地味で愚直な方法ですが蓄積することで価値が出てきます。

公務員時代、当初は債務負担行為の設定時期やESCOなどの専門用語の説明不足を理由に「議会軽視」と何度も指摘されていました。
そこで議会のたびに一般報告で「進行中・企画中のプロジェクトは全て」報告することとしました。何度かこれを繰り返すことで議会から逆に「一般報告のなかでファシリティマネジメント関連の内容が多すぎる。今後は事後報告で良い。」との意見が出されるほどでした。

相手にとって過多とも思われるぐらいの情報の質×量をオフィシャルな形(≒議事録の残る場面)で提供することで「知らなかった」「聞いていない」という不毛な争いを避けることができます。これも情報の非対称性の予防の一環でしょう。

また、近年は公共施設マネジメントやPPP/PFIの「本質」を理解してくれる議員も非常に多くなってきたように感じます。日頃からオフィシャルな場だけではなく、日常的にSNSなども活用しながら情報交流をしていくことによって、ポジティブにも情報を共有していくことはできるでしょう。

組織横断的検討体制

車座になっての検討状況
地獄の缶詰作業

まちみらいで行政のお手伝いをさせていただく際には、必ず契約前に「こちらでは字を一文字も書かないこと」を約束してもらいます。それは同時に、上の写真にあるように職員が自ら当該プロジェクトを検討するのに必要十分なメンバーを集め、徹底的なディスカッション(≒ものによっては地獄の缶詰作業)によって検討していくことを意味しています。

このように組織の垣根を越えて関係者が一同に介してディスカッションすることによって、情報は自ずと共有されていきます。検討のルールとして、この場に参加した職員は毎回必ず職場に持ち帰り課内で共有することとしています。
ディスカッションの時間は確かにかかりますが、このようなプロセスを経ることで表面上の言葉だけでないリアルなプロジェクトになっていきますし、様々な場面で説明を求められても自然と「自分の言葉」で説明できるようになっています。

外部からの評価

現代的なプロジェクトは自治体経営・まちづくりからみたら当たり前のことなのですが、「これまでと違うこと」をするのでどうしても「これまで」の人たちからみると違和感が生じると同時に不信感・不安感を抱いてしまいます。
「これまでの価値観」は残念ながら簡単には変わりません。前述の職員研修におけるアンケートもそうですが、「理解してくれない・できない人」に対しては客観的に見せていくことが大切です。

公務員時代にも議会や庁内での理解が進まなかったときに外部からの評価を得るため、日本ファシリティマネジメント協会のJFMA賞やプラチナ社会研究所のプラチナ大賞に応募し、(それぞれ結果は佳作相当でしたが)関係者に「今やっていること・これからやろうとしていること」の価値を認めてもらおうと画策しました。
意外と理解してくれない人たちはそれほどのポリシーや考え方、ましてや代案をもっているわけではないので、こうした対外的な評価に意外と弱いのです。

結局は本人の「覚悟・決断・行動」

特に行政の場合は、そもそもが非合理的な社会なので満額回答・理想的なプロジェクトを構築することは困難です。その原因も非合理的・非論理的なことであることが多いです。
ただ、100点ではなくとも「落とせるところ」を見出して少なくともコアな部分・魂は生かしてプロジェクトとして具現化することがプロとしての役割です。

合理的でないからいって「〇〇ガー」と言い訳していてはまちは変わりませんし、課題も解決できません。合理的でないからこそ今回述べたような愚直で誰でもできる「具体的な方法論」は試せるはずです。
そして、この程度のことで突破口が見出せるなら安いものです。
しかも、自分次第でできることがほとんどであり、試すことや交渉することから始めるのだったら誰でもできることです。

結局は個人の「覚悟・決断・行動」です。
プロとしてどれだけ言い訳しないでできるのか?
まちのために動くことができるのか?

弊社では、こうした部分を「現場重視・実践至上主義」でサポートさせていただいています。

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