短絡的な削減≠リストラ
ザ・公共施設マネジメントの思考回路・行動原理
白岡市
2023年11月に白岡市が「公共施設再編に関する基本方針」を公表した。
https://www.city.shiraoka.lg.jp/material/files/group/28/gyoseihoukoku2-R512.pdf
公共施設等総合管理計画を策定し、公共施設の総量縮減(≒ザ・公共施設マネジメント)に取り組もうとしたが、そもそもの「再編に要する財源が確保できないことが明らかになった」とのことである。
これは、白岡市の公共施設等総合管理計画における将来コスト推計を見れば、当初から明白であったはずだ。
「約43%の施設総量縮減が必要」は、無理ゲーであることと同義であり、そのことには気づいていたはずだ。
ただ、白岡市に限らずほとんどの自治体では短絡的な少量縮減にフォーカスを絞ったザ・公共施設マネジメントは総合管理計画に代表されるように「二次元の計画」でしかなく、自治体経営上の根幹的な課題であると認識してこなかった。
そこから数年が経過し、計画づくりの無限ループに陥るなかでいよいよ三次元の世界で財政的な余裕がなくなったり、まちが強烈な勢いで衰退する局面となってきて、課題がデッドラインを超えることで焦りはじめるのである。
ここでも残念ながら総量縮減にフォーカスを絞ったザ・公共施設マネジメントが大前提となっているが、何より驚かされるのは令和9年度(2027年度)末までの間、「市役所等の数施設を除き大規模改修・大規模修繕は行わない」ことである。
この表現がどこまでを指すかは文面上ではわからないところもあるが、学校などの未来を担う子どもたちのための場(、同時に災害時の主たる避難場所・避難所にもなりうる場)では1,300千円以上の防水・外壁改修やトイレ改修工事などが行わないように読めてしまう。
令和9年度末に公共施設やインフラの問題を抜本的に解決できる計画が策定できるのか?(、うまくできないから計画策定期限が延長になってしまうリスクも内包している)といった根本的な問題もありつつ、更に大きな問題が計画が完成するまでの間に「何も手をかけないことで施設・インフラの劣化が強烈なスピードで加速度的に進行してしまう」ことである。
計画にも当然、この間の劣化を反映する必要があるが、ニワトリと卵の世界になってしまう
富津市
白岡市の事例を見て思い出すのが富津市である。
当時の財政力指数0.95と全国的に見ても恵まれた環境(同時期に財政力指数が1を超えていた自治体は全体の3%)にあったはずの富津市は、財政調整基金の取り崩しと市債の大量発行によって表向きの単年度会計・現金主義における収支の帳尻を合わせていた。しかし、最後の頼みの綱であった財政調整基金が底をつくことが明らかになり財政非常事態宣言に至った。
その後の経営改革プランでは、上の表にあるようにほとんどの公共事業・サービスを凍結して一般会計からの支出を抑制することで財政調整基金の積み増しを行い、財政健全化に関する指標を改善していったのである。
しかし、この単年度会計現金主義をベースにした見かけ上の行財政改革・経営改善をしている間に、本来は改修・更新や修繕をすべきだった公共施設・インフラの老朽化・陳腐化が進行して「公共資産が負債化」してしまう。
いざ改修・更新するとなった場合には「過去の積み残し額」も含めて対応しなければならないので、より高額のコストが必要となってしまう。
つまり、短期的視野におけるその場しのぎの「お小遣い帳の小細工」では自治体経営には全く対応できないし、そうしたことをしている間にまちが衰退し、希望を失った動ける人(≒まちを支えてくれる・創ってくれる人)から流出し、税収も減っていくので負のスパイラルが形成されてしまう。(このあたりの論理は拙著「PPP/PFIに取り組むときに最初に読む本」で解説しているので、ぜひそちらで確認してほしい)
どうするのか
白岡市で起きていることは、単純化すると次のように整理できる。()内は更に悪い自治体のパターン
公共施設等総合管理計画を総務省に言われるがままに(コンサルに丸投げして)策定した
個別施設計画等も総務省に言われるがままに(同様にコンサルに丸投げして)策定した
(総合管理計画とは関係なく庁舎・図書館などをまちの規模からスケールアウトした形で補助金・交付金に依存して次々と整備し続け、)二次元の世界の総合管理計画で見込んだように施設総量の削減が進まない
(公共施設等の問題から目を背け続けたが、)ごまかしが効かないほど三次元の世界では公共施設・インフラの老朽化が進行し、財政も逼迫
(公共施設等の利用に支障が生じ)議会や市民から指摘される
(議会や市民からの指摘に対応するため、)対応するための(単年度会計・現金主義ベースのその場しのぎのための)二次元の計画を策定
他の自治体でも程度の差はあるが、ほとんどやっていることは変わらないだろう。
だからこそ、新著の拙著「実践!PPP/PFIを成功させる本」で解説しているとおりザ・公共施設マネジメントからの脱却していくしかない。
そして、今からでもできること・やるべきこと・やらなければいけないことが山ほどある。
フルコストベースのLCC
まずはフルコストベースのLCC(Life Cycle Cost:基本計画から設計・工事・維持管理運営・解体に至る総コスト)で公共施設・インフラを捉え直すことである。
これまでのように補助金・交付金に依存してイニシャルコストさえ調達できれば「できるだけ大きくて立派な」「まちのシンボルとなる」「市民の要望を全て盛り込んだ」公共施設を整備してしまうのではなく、計画段階からLCCベースでどれだけのコストがかかるのか試算し、それが自分たちが支えられる規模なのか、費用対効果はあるのか冷静に考えていく。
石川町の道の駅整備事業はまさに「自分たちが支えられる規模」をベースに、運営事業者を先行決定して想定される売り上げから施設規模・グレードを割返す逆算型で進行している。
簡単にできること
公共施設マネジメントは量を減らすことだけではない。公共施設は市民生活を支えたり豊かにするために貴重な税金を投下して整備した「資産」であり、そもそも「負債」ではない。負債を資産化する津山市のたかたようちえん、糀や、Globe Sports Domeなどのプロジェクトはもちろん、小さなことでもできることは数多くあるはずだ。
公共施設への自動販売機の設置も(いまだに行政財産の使用許可で僅かな使用料しか歳入として計上していない自治体も多いが、)行政財産の貸付にして一般競争入札やプロポーザルに切り替えることによって場所によっては1,000千円/年・台以上の歳入にすることもできる。
都市公園に設置する場合も、(特に街区公園などの小さな公園の場合は)公園内に向けてではなく敷地外周部で道路側(住宅地側)に向けて設置することで料金設定が大きく変わる。
前述の「PPP/PFIに取り組むときに最初に読む本」でも事例紹介しているとおり、有料広告も広告代理店を活用して自由度を高めて実施することで大きな歳入とできうる可能性がある。
ネーミングライツ・メルカリも室蘭市のように提案型とするなど少しの工夫をすることで大きな成果になっていく。
使用料・利用料の見直し
公共施設マネジメントは「経営」の問題である。施設のポテンシャル・意義をきちんと顕在化して経営に貢献するようにすることはもちろんだが、利用者にも適正な受益者負担を求める必要がある。
しかし、多くの自治体では「利用者(や議会)の反発」を恐れて使用料・利用料の見直しをほとんど行わずタダ同然で莫大なイニシャル・ランニングコストがかかっている公共施設が使われている。
宮崎市のように(これまで旧市町村単位・)施設単位でバラバラだった基準を一律で見直し、きちんと利用者や議会とも向きあって改正していくことも、短絡的な統廃合で市民生活に影響を及ぼす前に「自分たちの襟を正す」うえで最低限のできることの一つといえよう。
包括施設管理業務
庁舎の電気工作物、学校の浄化槽設備などの各種保守点検業務を包括発注しながら定期の巡回点検や小破修繕をビルトインすることで、施設管理の質を確保しながら職員のマンパワーを本来業務に振り向ける包括施設管理業務も、もはや当たり前の手法である。
ここ数年で導入する自治体が急増しているが、いまだに「地元事業者の仕事を奪う」「職員のノウハウがなくなる」「マネジメントフィーが発生するのがおかしい」等、(やってもいないし、先行事例のリアルな実態を学ばないなかで発生する)つまらない誤解で包括施設管理業務すら実施できていない自治体も多い。
前述の使用料の見直しと合わせて、「財政がもたなくなる前に」当たり前にやるべきことの一つである。
予算の優先順位設定
行政の予算編成はこれまで関わらせていただいた数多くの自治体の経験から見ても、意外と「声のデカい」「庁内的なパワーを持っている」幹部職のいるところに配分されたり、一部の議員や市民の声が根拠になってしまったり、いい加減な形で大した根拠もなく査定されている。
同時に、現在の財政状況を見るとほぼ全ての自治体で「必要十分な改修・更新予算を確保することは不可能」である。つまり、毎年改修できず積み残しになってしまう費用がどうしても発生し、それが公共施設・インフラの老朽化に直結している。
そうした実態をリアルに考えれば、現状の危険性や将来的な自治体経営・まちづくり全体のことを考えて、経営的な視点から改修・更新(・新設等)の予算を配分していくことが求められる。
公務員時代に流山市で実施していたような予算の優先順位設定を行うことも、本気になればそれほど難しいことではないはずだ。(詳細は拙著「PPP/PFIに取り組むときに最初に読む本」を参照)
ESCO等
空調設備や照明設備も何十年も前から更新できていない公共施設が数多くある。これもシェアード・セイビングス方式のESCOを用いれば、ダウンサイジングを図りながら10年以上にわたる安定したエネルギーサービス、光熱水費等の削減保証が受けられる仕組みである。
公務員時代にも多くのESCO事業を実施してきたが、サポートさせていただいている阿南市でも既に那賀川図書館(照明のみ)、科学センター及び学校給食センターで導入している。
スケールアウトしたハコモノを作らない
「財政が厳しい」と言っている自治体に限って、「まちのシンボル」「賑わいの拠点」と自称する庁舎・図書館・体育館などを補助金・交付金や起債に依存して整備していることが多い。
お城の巨大庁舎を整備した自治体では、小さな公民館等の統廃合の地元説明会を行うと必ず「お前たちはデッカくて新築のお城庁舎があっていいよな、(庁舎を少し小さくしていたら)俺たちの小さな公民館潰さなくても済んだんじゃないか!」と至極真っ当、反論の余地もない正論の意見を言われてしまう。
(庁舎は市政の中核・防災拠点として重要な施設であることは間違いないが、カビである必要性は全くない。)市民生活を切り取る前に、「自分たちの襟を正すこと」、「自分たちが範を示すこと」を忘れてはならない。
身の丈経営
残念ながら公共施設マネジメントがうまく進まない、財政が厳しいからと言い訳をし続ける自治体の多くは上記のような「当たり前にできること」「やらなければいけないこと」すら実施していない場合が多いのではないか。
まずは自分たちができること・やるべきこと・やらなければいけないことから丁寧に・愚直に実施すること、(改修予算が確保できないからといって)表層的に取り繕って問題を先送りして取り返しのつかない事態に陥らないことが大切である。
自分たちのまちなんだから自分たちがしっかりと向き合って覚悟・決断・行動を繰り返していくしかない。
そして短絡的な総量縮減は日本型リストラでしかない。リストラの本来の意味は理ストラクチャリング(≒再構築)である。
負債の資産化・まちの再編・まちの新陳代謝、これこそがやるべきことで、施設総量の縮減はその過程、一つの手段にすぎない。
お知らせ
実践!PPP/PFIを成功させる本
2023年11月17日に2冊目の単著「実践!PPP/PFIを成功させる本」が出版されました。「実践に特化した内容・コラム形式・読み切れるボリューム」の書籍となっています。ぜひご購入ください。
出版記念企画の「レビュー書いて超特濃接触サービス」も絶賛実施中ですので、ぜひこちらにもご応募ください。
PPP/PFIに取り組むときに最初に読む本
2021年に発売した初の単著。2023年11月現在5刷となっており多くの方に読んでいただいています。「実践!PPP/PFIを成功させる本」と合わせて読んでいただくとより理解が深まります。
まちみらい案内
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