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【レポート後編】書籍『遊び・学びを深める日本のプロジェクト保育 協働探究への誘い』刊行記念セミナー
まちの保育園・こども園/まちの研究所・グループも執筆させていただいた、今年9月に発行された書籍『遊び・学びを深める日本のプロジェクト保育 協働探究への誘い』(中央法規出版)の刊行を記念したオンラインセミナー。約600名の方々がご参加いただいたセミナーの模様をレポート形式でお届けしていきます。今回は後編です。
【▶︎前編はこちらから】
前回は、秋田喜代美 先生、弊社代表・松本による書籍概要の説明と、書籍に登場する全国の園の事例のうち、「こどもなーと山田保育園」「つぼみの子保育園」の事例をご紹介しました。
今回は、事例紹介の3園目である「海への探究」(まちの保育園 吉祥寺)の詳細と、各事例をふまえての専門家の意見や感想パートをお届けします。
全国の園より事例紹介・つづき
(3)「海への探究」 ー 川﨑(まちの保育園 吉祥寺 保育士)
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魚が大好きな2人の男の子の興味から始まり、さまざまな人を巻き込みながらどんどん深まっていった「海への探究」。
海そのものは園の近くにはありませんが、日常生活のさまざまな場面から、五感をつかって「海」を感じとる子どもたちの豊かな感性にハッとさせられたといいます。
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やがて「海の音」を探したり、つくりはじめた子どもたち。その音を録音したいということで、園のコミュニティコーディネーターが地域の音響会社から機材を借りてきました。
そこからさらに触発された子どもたちの表現活動を、今度は園のアトリエリスタが手助けし、環境や素材、問いを用意すると、波や風、水の音など海の多様なイメージをさまざまな方法で表現したり描いたりしていました。
これらの活動を保護者にも共有し、保育者との対話を重ねるなかで、やがて実際の海への訪問が実現。
これまで想像を膨らませてきた「海」をみんなで体験できたことに加え、リアルな「場」ならではの、海洋ゴミやリサイクラーとの出会いを通じ、環境問題や循環の視点も新たに加わり、海への思い入れがさらに深まりました。
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この活動は卒園ぎりぎりまで続き、卒園式では子どもの発案でシーグラスで作ったコサージュを身に着けたり、海にまつわるこれまでの作品を展示したりしました。
自分の住むまちに海が無くとも、その存在を常に近くに感じ、生き物や自然を「地球のみんな」として人間と同じように捉える子どもたちの感覚は、これからの世界を考える上でとても大切だと感じたといいます。
こどもたちから真剣に、自由に発せられる表現に感銘を受けた大人たち、さらにたくさんの人たちが「面白がる姿勢」が探究活動全体を支え、大きな成功につながったといえます。
専門家コメント(浅井幸子先生/野澤祥子先生/カンチェーミ潤子先生)
以上、3つの事例をふまえ、3名の先生方よりご感想やご意見をいただきました。
・浅井 幸子 先生(東京大学大学院教育学研究科 教授、東京大学大学院教育学研究科附属発達保育実践政策学センター 副センター長)
・野澤 祥子 先生(東京大学大学院教育学研究科附属発達保育実践政策学センター 准教授)
・カンチェーミ 潤子 先生(教育アドバイザー JC アカデミー 代表)
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野澤祥子先生:
「発表のなかで出てきた写真に着目してみたとき、どの園でも子どもたちの目線の先にあるものの写真が撮られていたのが印象的でした。子どもたちの世界を先生たちが一緒に見ているというのが伝わってきたからです。そのようにして子どもの探究を焦点化しているからこそ、先生たちが問いや仮説を持つことができるのだと思います」
カンチェーミ潤子先生:
「発表を聞きながら、“協働”という言葉の意味をずっと考えていました。“協働”という言葉には、もちろん“一緒に”という意味もありつつ、いろいろな意見の違いが存在しているという大切さもあると思います。全員が同じ考えではなく、そのうえでそれを言い合える信頼関係がある環境を先生たちが園の文化としてつくっている。だからこそ、このような探究ができるのではないでしょうか。違う視点を共有することが新しい視点やアイデアにつながり、それが協働探究ということにつながっていくのかなと思います」
浅井幸子先生:
「これまで保育の中での“協働”というと、子ども同士の協働を指すことが多かったのですが、先生たちも協働して探求する、さらに保護者、街の人々なども加わっていくというのは比較的新しい点だと思います。 さらには子どもの協働・大人の協働ということだけではなく、対象と出合い、関わっていくなかで、“世界との協働”が行われているのではないかと思いました。事例の紹介に出ていたように、海と共に探究する、チューリップと共に探究する、ビンゴを媒介として、川や水路が仲間になっていく。そうしたことも含めての協働というイメージで発表を伺いました」
おわりに:協働探究は「人類の探究」にもつながる
エコロジーの面でも、紛争などの面でも、現代はさまざまな課題や困難が待ち受ける時代。そうしたなか、こどもたちの探究は、私たちが分かった気になっていることにもう一度目を向けさせてくれる。一瞬一瞬を精一杯生きている姿に学びつつ、こどもたちの探究を丁寧に記録しながら、小さなアイデアを紡いでいくことが重要、というコメントが専門家三者から寄せられたあと、最後に代表の松本が今回のセミナーを振り返りつつ、協働探究の可能性について考えたことを述べました。
「1つは、子どもたちと共に世界に新たに出会い直し、
楽しさや豊かさを感じることができるということ」
「2つ目に、世界は自分たちで変えていくことができるという感覚を、
さまざまな姿から見せてくれていることです」
「最後に、子どもとの協働探究とは私たちが生を見つめ直したり、
知について問い直したり、共にある喜びを分かち合っていく、
いわば人類の探究につながっていくのではないかということ。
協働探究の実践を通して、
そのような可能性すら感じるようなところがありました」
約2時間にわたり開催されたセミナーは、保育や教育という枠を超え、こどもの可能性について改めて考えさせられる充実した内容となりました。
プロジェクト保育、そして協働探究についてさらに詳しく知りたい方は、ぜひ書籍のほうもお手に取っていただけると嬉しいです。