映画『めがね』ごっこ👓
大好きな映画、『めがね』。
小林聡美さん、市川実日子さん、もたいまさこさん、と素敵で個性的な女性がたくさん出てくる。私にとっては「おなじみ」の顔ぶれ。
小林聡美さんが演じるのは、ある春の日、島に降り立った謎の女性タエコ。観光名所もないようなその島に住む人々は皆、「たそがれ」の達人である。中学校の理科教師、民宿の主人とその飼い犬、そして、毎年春になると束の間、島にやってくるさくらさん。タエコを「先生」と呼ぶ謎の青年も追いかけてきて…。
はじめ、民宿ならではの近すぎる距離感に戸惑うタエコには、共感する。共同生活が苦手ならば、なぜよりによって民宿に来てしまったのか。携帯電話の電波の通じないところに行きたかったけれど、ビジネスホテルに籠るには、どこかで人恋しさがあったのか。
毎回、タエコのぶっきらぼうな横顔に頷きながら、でも最後には、ウェルシー体操をみんなでやることになるのだよなぁ、とニヤニヤしながら見ている。
いざ、『めがね』ごっこ。
『めがね』を観ていると、TVの前で涎を垂らしているだけの自分に、だんだんと耐えられなくなってくる。浜辺の瓶ビール。ボイルされ真っ赤に色づいた伊勢海老。自家製のすっぱい梅干し。そして、さくらさんの魔法のかき氷。
要するに、胃袋に訴えてくる映画なのだ。映画の中の季節は春だが、私は夏こそ、『めがね』ごっこにはふさわしいと思う。浜辺でビールは飲みにくい昨今だが、家の中でなら飲める。強い日差しをカーテンで閉め出した薄暗い部屋の中、映画の中の太陽に肌を焼かれながら飲むビールだっておいしい。
伊勢海老だって、ふるさと納税で頼めば夢ではない。皿の上に山盛りとは言わないまでも十分である。
梅干しは食べるごとに、「梅はその日の難逃れだからね」と呟きながらつまみ、ちゃんとすっぱい顔をするところまでがセット。
かき氷はまだ試していない。あんこから煮たら、やはり大変だろうか…自分用なら白玉ものせたい。と、妄想は膨らむばかり…
ハードルの高かった『かもめ食堂』ごっこ
『めがね』より先に出会った『かもめ食堂』に憧れて、シナモンロールを手作りしたことがあるが、タネが十分に発酵していなかったのか、生焼けの残念な代物が出来上がった。
カルダモンやシナモンや、意気揚々と揃えた材料。鉄板の上で、うさぎのしっぽよろしく小さく丸まっているロールたちを食卓の向こうに押しやり、映画の続きにもくもくと見入るのだった。生のパンが胸焼けのするものだなんて、それまで知らなかった。
『かもめ食堂』の、しっかり日本のごはん。という胸の張り方も素敵なのだが、『めがね』のとにかく瓶ビール‼︎ な気怠さも捨て難いのである。いつか、おいしい鮭のおにぎりを手づかみで頬張りながら『かもめ食堂』を観ることをここに誓う。
霞を食って生きてはいけないけれど…
食べ物のことばかり書いたが、結局この2つの映画の何がそんなに良いのかというと「空気」なのだ。そこだけ砂時計の砂がゆっくりと落ちているような、忙しない日常の中で見過ごしていた誰かの笑顔が道端の花が、いやにくっきりと鮮やかに目に映るような不思議な「空気」なのだ。
私にとって印象的な島はやはり屋久島だが、フィンランドも、日本から遠く離れた場所という意味では島のような存在といえる。島が以前よりも遠くにある今、自分の周りに「島的空間」を探すのも、面白いかもしれない。