『雪の断章』佐々木丸美
ラジオからクリスマスソングが聴こえてくる季節。未読のまま本棚にあった分厚い本を手に取った。近ごろ敬遠している長編も、今ならすいすいと頭に染み込んでくる。そんな気がした。
孤児の少女、飛鳥と彼女を助けた祐也の運命的な出会いから物語は始まる。
舞台となる北海道を巡る四季、飛鳥の心の動きに合わせるように、また彼女を導くように、さまざまな表情を見せる雪の描写が綺麗だ。
「森は生きている」という童話を羅針盤のように胸に抱き、人生のさまざまな岐路で、飛鳥は自らの運命を自然の意志に尋ねる。
大人になった飛鳥はしかし、無邪気な子供ではいられなくなる。これまで自分が信じていた事物を疑い、自分の心もわからなくなる。
自分だけを信じようとするあまり、時に深く沈み込み、あらゆるものを遮断する。まっすぐなあまりに不器用な、傲慢とさえ言える飛鳥の信念は、白い雪への志向と重なる。「この雪のように、どこまでも白くなりたい…」
推理小説を、どこまでも文学にまで近づけたかった、という作者の言葉が、至極腑に落ちた。
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