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カズオイシグロの「わたしを離さないで」について

 カズオイシグロの「わたしを離さないで」を読んだ。最初に読んだのが大学生の頃で、数年の時を経て今回で2回目となる。物語の細かい部分をほとんど忘れてしまっており、再読にも関わらず次はどうなるんだろうと思いながら終始ページをめくっていた。
 この話は提供人と呼ばれる臓器を提供することを目的として生まれたクローンたちの話である。提供人は幼少時代から青年になるまで施設で過ごし、その後外の世界で数年間時を過ごした後、介護人と呼ばれる提供人のサポートをする。そして、介護人の役目が終わると、提供人として最後の時を過ごす。
 小説はキャシー・Dというクローンの女性が自身の半生を回想するという形で進んでいく。そのため、時系列があっちこっちに飛ぶのでそこは読み辛さを感じた。
 物語は三部構成に分かれる。第一部はヘールシャムという施設での日々、第二部はヘールシャムを出た後のコテージでの日々、第三部では介護人となった後の日々が描かれる。第一部と第二部で生じた謎が第三部で明かされていく。作中に登場するクローンたちを待ち受ける運命は残酷である。主人公のキャシーは同じ施設で育った友人や最愛の恋人が臓器を摘出されて死んでいくのを傍で見守る。辛い別れを静かに受け入れながら、残った思い出を大切に自身の人生に何かを見いだそうとしている。だからこそ、心打たれるものがある。
 面白かったかというとわからない。また、好きかと尋ねられたらわからないと答えるだろう。ただ、読む価値はあったかという質問にはあったと断言できる。
 「わたしを離さないで」を読んで言葉にならない感情を抱えたままこの文章を書いている。もしも、この本を読んだ人がいたら、どう感じたのか話したいと強く思う。

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