中村文則の「去年の冬、君と別れ」
中村文則の「去年の冬、君と別れ」についてを読んだ。初めて読む本である。女性を燃やして殺害し死刑囚になった写真家を取材するライターの話である。
冒頭ではライターが写真家と拘置所で面会するシーンから始まる。ライターはその後も、写真家の姉、友人などと面会し、写真家がなぜそのような事件を起こしたのか真相に迫っていく。あらすじはこんな感じである。
この作品を読んだ感想は一言で表すなら非常にややこしい小説だった。最初に登場した人物が物語が進むうちに、実は違う人物だったということが判明したり、ある場面ではこちらが想定していた語り手とは違う人物が語り手だったりして読んでいて疲れた。最初はしっかり読もうとしたものの、途中で面倒になり何も考えずとりあえず読み進むことにしたくらいだ。
良く言えば手が込んでいて緻密に設計されているが、悪く言えば面倒臭い小説である。私としては、もう少しボケッとしながらでもスルスルと頭の中に入ってくる小説の方が良い。だから、何度か再読すればうまく内容を頭の中で整理できそうだが、現時点では再読するつもりはない。
とはいえ、面白いことは面白かった。どんでん返しが数回あって、ミステリー好きな人には良いかもしれない。小説のタイトルの意味がわかったときはなるほどなと感心してしまった。また、ページ数が200ページもないので読み通しやすい。とはいえ、暗い小説なのであまり人におすすめすることもないと思う。
また、芥川龍之介の「地獄変」やトルーマン・カポーティの「冷血」が作中で言及されている。私は両作を読んだことがあるが、恥ずかしながら私の感性には引っ掛からなかった。そのこともあり、登場人物に共感できなかった。