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遠くを目指してたら、足元の英検2級に受かってた

沖縄で悔しい思いをするんよ

ことの始まりは“伝えられない悔しさ”。
私は沖縄が大好きで、沖縄について質問されると誰彼構わずベストを尽くしたくなる。

国境も問わん!

だが、バベルの塔が崩壊して以来、国の線をまたぐと言葉のコミュニケーションが不便になってしまった。


何を伝えたいってこんなことよ

“ここからビーチまでは歩いていけるの?” なんて他愛もない質問。
相手は“yes” か"no"くらいの返事しか求めてないのかもしれない。
しかし私はベストを尽くしたい。

よし!世界共通語を身につけるぞ。

質問されたことに答えて、“ありがとう”とお互い微笑み合うんだ。

それだけでなく、“ビーチまで歩くことはできるけど、バスもあるよ” とか “ビーチまでは結構、アップダウンがあるから、小さい子連れてると大変だよ”とか。
言えたら親切でうれしいよ。

更に“そこのビーチ、満潮の前後2時間はウミガメが来るからシュノーケリングして探してみるといいよ” と伝えられたら、ちょっとしたガイドさんだよ。

英語を勉強するぞ!英語を話せるようになるんだ。

師、現る

何とも変わった動機かもしれないが、決意した私にいい話が舞い込んでくる。
塾講師をしている友人が個人レッスンすることを請け負ってくれたのだ。

2ヶ月に一度3時間、教えてもらうことになった。

やっていたことは
①文法の問題集
②英文の暗記

ねらいは、
①文法理解してたら相手に伝わる文章を自力で組み立てられる
②英文暗記して、長く話す癖をつけておくと会話が楽
とのことだった。

さっそく挫折する

友だちが用意してくれた英文暗記テキストは時事内容を取り扱ったものだった。
オリンピック選手の話や経済の話題など、知ってるけど興味がない内容。

暗記に身が入らない。

英語で沖縄を語りたい私にとって、時事問題はかけ離れた存在で興味が持てず、やる気がしぼんでいった。

狙ってはないけど、やらかす

とうとう、全く英文暗記をせずに授業の日がやってきてしまった。
しかも、私はテキストを全部家に置き忘れて授業に来てしまう。

持ってくるべきテキストの代わりに、唯一カバンに入っていたのは授業と全く関係のない、沖縄で見つけた、買ったばかりの薄い冊子。

中高生の英語学習向けに作られており、沖縄の気候や歴史、文化、そして自然について比較的易しく、長すぎない文章で書かれていた。
沖縄の本屋でこんな教科書見つけたんだよ、と友人に見せたくてカバンに入れていたのだ。

弟子のハートに火をつけた師のひとこと

宿題の英文暗記はしてない上、授業で使うテキストを持ってこない生徒。
友人は呆れて「そんなに沖縄が好きなんだったら、今度からこのテキストを暗記しようか」と言った。

多分、投げやりに放ったひと言。

きっと「ごめんね、次回は英文暗記してくる。テキストも忘れないね。」と生徒は言うはず。

しかしながら……

友人の提案に私はパァッと顔を輝かせ「ほんとに!?いいの??」と俄然乗り気になる。

お陰様で私、そっから劇的に変化します。

沖縄英文で開眼

私は英文暗記を始めた。沖縄について英語で話せてることがうれしくてたまらない。
テキストをコピーして、発音記号を書き込んで、時にカタカナも付け足して持ち歩き、寝ても覚めてもブツブツと暗記した。

仕事帰り、駅から家までの15分間は最高のスピーチ会場だった。
昼休憩の時、使われていない大会議室でこっそりスピーチしたこともある。あれは気分が良かった。
ひとりTEDだ。

この時に覚えた英文のいくつかは今でも頭に残っていて、話すことができる。

昨日の夕食に何を食べたのか、次の病院の日はいつなのかは覚えてなくても、沖縄の気候や料理の特徴を英語で説明する文章は覚えているのだ。

2ヶ月後、私は沖縄について書かれた冊子の英文を殆ど暗記して授業に臨んだ。

好きは続く

友人は私の激変ぶりに驚きながらも、とってもよろこんでくれた。
人生の中で、私をこんなに変えてくれた先生はいなかった。

テキストの暗記を終えると、琉球新報が沖縄の記事を英訳したものをコピーして訳す勉強も始めた。
集中力は途切れず、英語の勉強をしない日はなくなった。

実は今でも毎日、勉強し続けている。
冒頭に出てきたような道案内の類は沖縄限定でなら、随分できるようになった。

この間行った離島の商店で、クレジットカードで買い物しようとした外国人カップルがいた。
店員は「現金のみ」は英語で伝えられたものの、彼らの「どこでお金を下ろせるのか」という質問を理解することができなかった。

ちょうど後に並んでいたので「お金は郵便局で下ろせる。でも、郵便局はもう閉まっていて明日の朝9時に開く」と説明することができた。

ドキドキするし、脳みそ総動員になるけど英語で誰かの手助けができると普段の何倍もうれしい。

何よりわざわざ外国から美しいこの島に来たカップルに、つまらない思い出を持って帰って欲しくない。

力試し、運試し?

機嫌よく英語学習を続ける私に友人が「英検受けてみたら?」と提案した。

実は、学生時代に英語が苦手だった私は英検を4級しか受けたことがなく、2級なんて帰国子女が受けるものと全く興味を持っていなかった。

「準2級受けてみようかな」と弱気で言ってみたが、「いやいや、どうせだったら2級にしなよ。」と更なる高みの世界へ背中を押す。

「無理っす」と思ったのだが、本屋に行って英検対策問題集をパラパラ立ち読みすると

できちゃうかもしれない

と錯覚させるような、少しがんばれば歯の立ちそうな試験問題。

よーし、英検2級に挑戦だ!

もちろんだが、英検2級の問題集は沖縄について書かれていない。
そこの所は、難しいことにチャレンジしてる自分に酔いしれて、どうにか勉強を継続することができた。
解ける問題があったことも力づけになった。

考えて解いても間違いだらけだったら、多分諦めていただろう。

一次試験は難なくパス

一次試験を終えた時の感想は「解けるテスト問題がたくさんあって楽しかった」。
こんな気持ち、今まで抱いたことないよ。

いつも試験は四苦八苦と八方塞がりで、エネルギーを使い果たし、終わったら真っ直ぐ歩くことさえできなかった。

そんな私が「楽しかった」と。くぅ〜ですわ。

二次試験はなんと海を越えて

我ながら笑ってしまうのだが、二次試験の日はちょうど沖縄旅行の最終日と重なっていた。

千葉県民が那覇で英検2級の二次試験をウケる。
正にウケる。私らしくてやる気が湧く。

試験内容は試験官と会話する「面接形式」とのことで、旅行中は全く試験勉強をしなかった。

海で泳いで、おいしい沖縄料理を食べて、友だちと飲み歩いて。試験前の緊張は出てくる暇がなかった。

試験の前日、友人がやってる那覇のバーで飲んでいると、アメリカ人のホイットニーがやって来た。
ホイットニーは那覇の小学校で英語を教えている。

友人がホイットニーに「この子、明日英語の試験受けるってよ」と余計な事を言う。
どんな問題が出るの?と聞かれて「マンガみたいなやつがあって、それがどんな内容が説明したりする」と答えた。

友人は新聞を裏から持って来て「ほら、ホイットニーにやってごらん」と手渡す。
そう、新聞には4コマ漫画が掲載されているのだ!

那覇のバーがいきなり英検2級二次試験模擬会場になる

一気に酔いは覚め、沖縄旅行ののんびりモードは吹き飛ぶ。
最早バーではない。にわか模擬試験会場だ。
英検2級二次試験の始まり始まり。
でも私はやってみた。こんな幸運滅多にない。
「やってみろ!」と神様が用意してくれたみたいだ。

四苦八苦はしたけども、ホイットニー相手に4コマ漫画に描かれていたことについて説明した。
酔っていたからか、臆病がいつもより出なかった。

ホイットニーはニコニコして「(全て英語で)あなたは英語を話せてるよ。あなたの英語はベリーナイスだよ。大丈夫!」と言ってくれた。

合格はもらったぜ!と私は戻って来た酔いと共に少々浮かれて、楽しい夜を過ごした。

試験官の自己紹介にテンション上がる

翌朝、試験が終わったらその足で那覇空港へ向かうのでキャリーケースと共に会場に行った。
キャリーケースは廊下に置かせてもらうことになった。

試験室には優しそうな眼鏡をかけた女性がひとり。
まずはお互いの自己紹介から始めた。

「マイネーム イズ トグチ」と試験官が自己紹介する。静かに私のテンションは跳ね上がる。

ト・グ・チ・さ・ん

沖縄独特の名字に心が弾む
あぁ、この人ウチナーンチュ(沖縄の人)なんだ
私、ウチナーンチュに試験してもらってるんだ

恐らく、みんな???と思っているだろう。

例えば、あなたの好きな俳優さんが試験官だったらと想像してみて欲しい。
もし、英検2級の試験官が天海祐希さんだったら……
泣くほどうれしくないですか?

大袈裟ではなく、私はそういう気分だった。

不純かもしれないが、私は試験官がトグチ先生だったことで実力を最大限に発揮することができたと思っている。

気持ちはただひとつ
「トグチ先生の質問に精一杯答えたい。わかることは全部伝えたい」
それだけ。

トグチ先生と英語で話がしたかったから、ベストを尽くした。

試験が無事終わり、私はトグチ先生に「私は千葉から来ました。今日、これから羽田空港に帰ります。」と照れくさかったが英語で伝えた。

トグチ先生は一瞬驚いて、笑顔になり「気をつけて帰ってね」と英語で返してくれた。

全力投球したので、試験ができた・できなかったは覚えていない。
ただ、沖縄で英検2級の二次試験を受けられたことは幸運だった、これだけは確実に言える。

もし、試験官がこ意地悪そうな川口さんだったら……私はここまで楽しく二次試験を受けることはできなかった。これも確実に言える。運も実力のうちだ!
※川口さんに意味はありません。川口さん気を悪くしないで下さい。

結果発表〜

うれしいことに、一度で合格することができた
感無量。
目に見えるもの(友人たち)・目に見えないもの(沖縄で二次試験を受けた巡り合わせ)あらゆるものに背中を押されて、受け取ることができた合格通知。
うれしかった。やったーー。

今でもジジイの武勇伝よろしく、「こうして私、英検2級に合格しました」とあちこちで語っている。

英検2級に挑戦したことは、とってもハッピーな思い出。

長〜い文章にお付き合いありがとうございました。



#あの選択をしたから

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