おまじない
皮膚科に行った。
乾燥からか急に肌の一部が痒くなって
いろいろ市販のクリームを試したものの
それが逆効果だったのか、
朝起きると、今までに見たことがない肌の色と
肌触りになってしまっていた。
そうなると、なんとなく元気もなくなって
初めての症状で、治らなかったらどうしよう、と
不安にもなってきて、、、どうにもこうにも困って、
家から徒歩2分の皮膚科に行くことにした。
ビルの3階にあるその皮膚科の看板は
毎日目に入っていたものの
どんな病院なのか全く知らなかった。
念のため行く前に、病院の様子を調べてみると
患者さんの書いたであろう口コミがたくさん見つかった。
親切、やさしい先生、的確な診断、過去一良い先生。
色々良いことが書いてある中に、
「神様がいるけど、人気すぎて2時間待つ」とあった。
笑ってしまった。
同時に、こんな近所に神様がいるなら
ぜひ会ってみたいと思って早速行くことにした。
病院が開いて30分後に訪れてみると
すでに21人待ちだった。
1時間以上はザラに待つのか
一度外に出かけて指定された時間に
戻ってくるシステムが日常化されているようで、
待合室には人が少なかった。
わたしも家で待とうかなぁと考えていると、
待合室まで神様らしき先生の声が聞こえてきた。
先生も一人、診察室も一つの、
とても小さな病院だから、
個人情報もへったくれもなく
患者さんと先生の会話の内容までしっかり聞こえてくる。
せっかくだから、こんな機会もないし、
そのまま神様の声を聞いて待つことにした。
約2時間、神様と患者さんの会話を聞きながら
神様の特徴に気がついた。
神様はよく笑う。
特におもしろい会話をしている訳ではない。
症状が何日前から出てる?とか
去年も同じ時期に同じ症状だね?とか
薬は手を洗ってから塗ってね、とか
普通の話の途中で、笑う。
相槌のかわりに、笑う。
それにつられて、患者さんも笑っている。
わたしにはまだわからないけれど
神様になると、普通の話も
面白くなるんだろうなぁと思った。
そしてもう一つ、
神様がどの患者さんにも
共通して言っていた言葉がある。
「重症じゃないからね」。
本当に21人全員が重症でないのかどうなのか
わたしにはわからないけれど、漏れなく言っていた。
それも必ず数回。
これはもしかしたら
神様の神様たる所以なのかもしれない、、、
とかなんとか思っていると
名前が呼ばれて
ついにわたしの順番がやってきた。
「待ちくたびれたねー!」と笑いながら
おじいちゃん神様がうれしそうに迎えてくれた。
何がそんなにうれしいのかわからないけれど
うれしそうにしている神様に、
2時間前より明らかにおかしな色で、
熱を持った肌を見せると
一言、「重症じゃないね」。
やっぱり言った。
ものの数分で診察が終わり、
薬をもらって帰る頃には、
まだ症状は変わっていないのに
不思議と、気分が良くなっていた。
「人は全く疑うことなく
受け入れた言葉の通りに変化する」と、
以前、別の神様から聞いたことがある。
神様たちが使うそのおまじないを
わたしもいつか、使えるようになりたい。