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幼女の謎フィルター

街ゆく人々が、晩ごはんの支度に向け、そわそわし始める夕刻。
最寄り駅近くのATMへ向かった。
自動ドアで仕切られた小さなスペースには、機械が2台。外側には、すでにまあまあな行列が出来ていた。

結構な時間を経て少しずつ列が進み、ようやく順番が来て中に入ると、右側の台では幼女(幼稚園児くらい?)を連れたお母さん(私より10歳は若い?)が猛操作中であった。

ちなみにお母さんは、私が中に入る前からずっと操作しておられる。
おそらく込み入った用件に悪戦苦闘されているのだろう。左の台では私を含め6人は入れ替わったはずだが、集中力を途切れさせることなく、今もなおガッツリ機械と向き合っていらっしゃる。

片や、野放し状態の女の子は、非常に手持ち無沙汰なご様子。
しかもかなりの活発キャラだったようで、激しい「キョロキョロ」からの「ウロチョロ」を開始。
その流れで必然的に私の姿が目に入ったらしいのだが、何故か彼女は瞬間的に声もなく『ハッ!』とした。
それは、ものすごい衝撃であろう明らかなる『ハッ!』であり、画面を操作していても分かる位であった。

『え!?何でハッとした!?もしや寝ぐせついてる!?(←以前、盛大な寝ぐせを通りすがりのうら若きおしゃれ女子2人に笑われたことアリ)』
などと、画面を見下ろしながらドギマギしていると、女の子は私を凝視したままお母さんの袖を引っ張り、「ママッ!先生!先生!」としきりに報告し始めた。

『なぬっ!?先生?どこに先生?他に誰もいないけど、どういうこと?』
固まる私。
と、ようやくそこでお母さん。娘のただならぬ慌てっぷりに触発され、画面から目を離し、私を一瞥。……が、あっさりスルー。
……どうやらお母さんにも意味不明だったようだ。

そんな母にもめげず、尚もじいーっと私を見つめる女の子……。
その一心な視線に負け、私は彼女をチラッと見てニコッと微笑んだ。
すると女の子は再びハッと驚き、母の体をグイグイ押しながら「先生、先生!」と懸命に告げた。(しかし、やはりお母さんは華麗にスルー)。

その後、私は親子よりも先にATMを後にした。
相変わらず操作に集中する母のもとで、謎の視線を送り続ける女の子に見送られながら……。

いやあ、ほんと何だったのだろう。幼稚園の先生と間違ったのだろうか。
そもそも子供の感性はユニークだが、自由奔放そうな彼女は特に発想がユニークそうだったので、一体どんな勘違いをしていたのかが気になるところであった。
そして、そんな親子がATMの“行列メーカー”だったというのも興味深いところなのである。