天上人のような、ニューカレドニアの方々(1990年 21歳学生時代)
学生時代、のんびり屋の友とお気楽な私とで、のどかなニューカレドニアを訪れた。
時は30年以上前。携帯電話すら一般的に普及していない頃のことである。
4日間のフリープランツアーも、いよいよ3日目となった朝。
現地にもまあまあ慣れて来た私達は、なんとなーくの思いつきで、ニューカレドニアの国鳥「カグ―」を見るため、山の上にある「ミッシェル・コルバッソン動植物森林公園」を訪れることにした。
早速ガイドブックでルートをチェックする。
どうやらホテルからは、徒歩で坂途中のバス停まで行き、そこから乗車20分程で到着する模様である(←※現在すでに記憶の彼方だが、確かそんな感じだった)。
ただちょっと、時刻や乗り方などのバス事情がイマイチよく分からない。
しかし、そこはのん気な二人組。「まあとりあえず行ってみますか……」とお昼近くにのんびりホテルを出発。心地よい南国の風に、ますますボヨヨ~ンと気を緩ませながら、ワイワイとバス停へ向かったのだった。
……がっ!地図では分からなかった、想定外の上り坂のきつさにたちまち閉口。おまけにバス停にもなかなか辿り着かない。
日陰の無い道。直火のような日差しが、帽子も日傘も無い二人を容赦なく襲い、身も頭皮もチリチリと焦がしていった。
「ハアハア、疲れたね……」
「うん、それに日差しが痛いね……」
なにしろ我々は生粋の文化系タイプ。加えて、バイタリティも人一倍乏しく、体育の授業を欠席しまくった結果、単位不足を危ぶまれた2人なのだ。そして、高原でのパラグライダー体験旅では、練習で疲れ切り、実践時には体育座りで他の友らを見学していた2人なのだ。
体力があっという間に底をつき、生気をどんどん失っていったのも無理はなかったのである。
「バ…バス停、本当にあるのかね?……って言うか、この道でいいんだよね?」
先行きの見えない不安。湧き上がる疑念。ドロリとした表情。焦げゆく肌……。
「勇気ある撤退」の文字が頭をかすめる。
とその時。我々を追い越した1台の白い小型車が、スーッと路肩に寄り、少し先に停車した。
『なんで、なにも無い所に停まったんだろう……?』
いぶかし気に目を凝らすと、後部座席の窓から2歳位の白人の女の子がピョコンと顔を出しているのが見えた。……おしゃぶりをくわえた姿がとってもキュートである!
「あら~かわいい~!」一瞬和む私たち。
すると今度は、運転席の窓からパパらしきメガネの男性がヒョコッと顔を出し、「 どこまで行くの?この先だったら乗せてくよ!(意訳)」と、母国語のフランス語ではなく英語で爽やかに聞いて来られた。
「えっ!」
突然の逆ヒッチハイクにひるむ我々。だが一応、素直に公園名だけを告げたところ(ちなみに、友も私も英語苦手)、パパは実に屈託なく「OK!じゃあ乗って!(意訳)」と、わざわざ車内の荷物(購入したオムツとか)をトランクに移し、招き入れて下さった。
しかもなんと、公園近くの道端で降ろされるのかと思いきや、森林公園敷地内の入場口にわざわざ横づけして下さったのである!
『なんて誠実!なんて優しい!』我々は歓喜と感激に満ち溢れた。
だからこそ、「Thank you!!」とでしか言い表せない自分たちがものすごくもどかしかった。
そこで、せめてとばかりに最高の笑顔で手を振った。
それに応えて、笑顔で手を振り返す爽やかな父娘……。
何とも南国らしい、素敵な出会であった。
「いやぁ、ありがたいね!こんなことってあるもんなんだね~」
私たちはキャッキャと浮かれながら公園へと入って行った。
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さて、のんびり散策を終えたその帰り。
公園敷地内のバス停で時刻表を見ると………なんと!まだ日も明るい夕方だというのに、もう便がないではないか!
慌てて、近くでご談笑中の白人マダムお二人に猛突進する我々。
「このバス路線の便がもうないので、近くに別なバス路線はありませんか?(意訳)」と魂のカタコト英語を放つ。
「ウーララ!」と見つめ合うマダム……。
答えは「ないわね~(フランス語訛りの英語。意訳)」であった。
「えーーっ!?……サ、サンキュー……」
かろうじて返答したものの、頭まっ白で見つめ合う我々。
だが、茫然としている暇はない。我々にはタクシーなど呼べるはずもないから、どれ位かかるか分からないが、日が出ているうちに徒歩で下山するしかないのだ。
「仕方ない、行こうか……」
二人はトボトボ歩き始めた。
とそこへ、マダムのお一方が呼び止められた。
「ちょっと待って!私ももう帰るから、坂の下までで良ければ車で送るわよ!(意訳)」
そりゃもうビックリたまげた我々。再び歓喜と感謝に沸いたのは言うまでもなかった……。
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……と、まあ今思い返すと、とにかく我々のボンヤリっぷりに思いっきり突っ込みを入れてやりたくなるのだが、そんなのん気者でも無事旅を終えることが出来たのは、本当に天使のようなニューカレドニアの方々のおかげ。
さすが「天国に一番近い島」なのであった(合掌)。
余談 その1
英語が苦手な友と私。車内でのパパやマダムとの会話では、変な汗をかきまくったが、ハイテンションでカバー。なんとか乗り切った。『せめてものお礼に、楽しい会話を……』と必死だった。
尚、マダムは道中、「良かったらホテルまで送るわよ!なんて言うホテル?」とまで言って下さったのだが、ホテル名を告げてもご存じなかったのと(もしかして発音の問題?)、我々も道案内するほどの英語力がなかったため、約束どおり坂の下あたりで降ろしていただいた。
日は陰り、辺りは街明かりが際立つほど薄暗くなっていた。
マダムのお心遣いにしみじみ感謝する私たち……。と同時に、英語力の無さもあらためて痛感したのであった。
余談 その2
当時、ニューカレドニアは海外でも治安が良いと言われており、旅で出逢った方々も素朴で心優しい方が多かった。
とは言え、グレーゾーンな方もいらっしゃったし、ホテルでは盗難もあったようなので、やはり注意は必要である。(以下は実際の体験)
①ホテル付近の人影少なきビーチにて
フラリと近寄ってきた地元のおじさん。何故か薄笑いで「昔パイロットだった」と何度も何度も主張して来られた。
そんなおじさんは、タトゥー入りの細い体、虚ろな目に回らない呂律、そしておぼつかない足取りという、別な意味でちょっと近寄りがたいお姿であった。
②ホテルでの盗難事件
滞在中の午後、外出からホテルに戻ると、警察が来てちょっとした騒動となっていた。盗難事件が起こったのだ。
狙われたのは、なんと「フロント脇」の「セーフティボックス」……。
我々は利用していなかったため(預ける程の貴重品が無かった)詳細を知ることは無かったのだが、漏れ伝わって来た情報によると、同じツアーの日本人のおじさま方は、預けていた金品を根こそぎ盗られたようである。当然、ものすごくお怒りであった。