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人生の酸いを聞かせる旅先マッサージ店ご主人(2012年 43歳)

私の旅(風水開運ひとり旅)は、どうしても最終日が中途半端な感じになってしまう。
なぜなら、最終日は単なる予備日。
初日や中日にガッチリ予定していた「開運行動(パワースポット巡りなど)」が完遂出来なかった時の、「応急措置的」日なのだ。

という訳で、今回の2泊3日旅の最終日も、完全なるノープランで迎えた。
只今の残り時間は、空港までの移動時間などを差し引いて、あと2時間半。
そして現在地は、予期せぬ流れで宿の方が車で送って下さった末の、旅行者は立ち寄らないであろう見知らぬ住宅街で、「ど…どこですか、ここは…?(大汗)」状態である。

ただし、空港行きのバス通りではあるのだ。少し前方にはバス停も見える。なので、とにかくこの不明な現在地から脱出するのが先決だ。……その一心で歩き出す。

すると間もなく、ふと見た左手奥の住宅街に、「足ツボ」の看板をチラッと発見した。
「あっ!」
途端に目がキラリンとした私は、乱視で良く見えぬ看板を見据え直し、つんのめるように突進した。

到着したのは、明らかに2階建ての個人宅。
しかし、1階部分がお店になっていて、パッと見は理容室。看板を目ざとく見つけていなかったら、足ツボ店とは思わず通り過ぎていたであろう。

「今営業中だろうか?」
ガラス扉の奥をキョロキョロ覗く。……どなたもいらっしゃらぬが、どうやら営業中のようだ。
瞬間、胸が高鳴る。「こっ…これは運命の出逢いなのでは!?」

そう思ったのは大げさではない。
と言うのも、今回の旅の開運行動のひとつ「足裏マッサージ」を、どうしても条件とタイミングが合わず、やむなく一旦諦めたのだ。そして、今の今まで忘却の彼方となっていたのだ。

そしたら意外や意外!
忘れた頃に、しかもこれから帰るという微妙な空き時間に、しかもたまたま宿の方が降ろして下さった場所で、あやうく理容室だと見過ごしそうになりながらも唐突に発見したのだ!

とは言え、こちらは個人のお店。予約なしのハードルは高い。旅人の急な申し出にご対応いただけるかどうか……。
不安と期待を胸にドアを開け、声を振り絞る。
「こんにちは~」
呼びかけること数回、ようやく奥の居住スペースからご主人(おじさま店主さん)がご登場された。
私は真っ先に旅人であることを告げ、希望のコースで施術が可能かをお伺いした。
そしたら、なんとありがたいことに、すぐご案内していただけるとのこと!

にわかに活気づく店内。店主さんは、早速私をリクライニング式の長椅子に通し、準備を開始された。
いそいそと横たわる私は、『うっふっふ、これで運気アップ間違いなし!』『歩き疲れてパンパンの足も、これでスッキリ!』『なんてツイてるんだろう!ありがたい!』などという期待と喜びで、内心ニヤニヤが止まらない。

がっ!ツボ押しが始まるや否や、シャレにならぬ激痛が強襲。
即刻地獄へ突き落された。
『ぅおあっ!痛っ!!痛ったいっ!!』
顔は歪み、ぐにぐにと小さく悶える。
『ああ……なんてこった!テレビでよく見るあのお約束シーンのまんまじゃないか!……恥ずかしっ! 』
痛みという原始的な感覚に侵された脳内で、理性がちょいちょい働く。
だが、長くは続かない。それどころじゃない。これは生命の危機的激痛なのだ。マッサージ慣れしている筈なのに、ひとツボごとに体が硬直し、脂汗が止まらないのだ。

次第に高まりゆくストレス。それはやがて『うぉぉぃ!何をするんじゃい!💢』といった、怒りの芽生えにまで及んだ。
そして、その芽が膨らみ始めた頃、ふと学生時代の知人の話を思い出す。……そう、確か彼女は苦笑いしながら言っていた。
「エステに通い始めたんだけど、お腹のマッサージが激痛で……。それがストレスになって余計食べちゃうから、結局2回でやめちゃった。回数券買っちゃったけど……」

当時経験不足だった私は、その体験談を『そっか、そんなこともあるんだね~』と軽く流してしまったが(ごめんなさい)、な、なるほどーー!今なら痛いほどよく分かるぞいぃぃーー!!

そんな今更の理解を深めつつ、いつまで経っても止まない猛攻に、半ば怒りでぷるぷる打ち震えながら、私は『っつー!痛い!』とのたくり続けた。
片や、店主さんは平然たるもの。追撃の手を緩める気配すらない。
おそらくこんなことは日常茶飯事なのだろう。
「大丈夫、大丈夫。次の日には嘘のようにスッキリするから」
と軽くいなすと、どういう流れか身の上話を始められたのだった。

お話は、割と事細かに、滔々とうとうと語られていった。
その内容を、詳細に触れずざっくりまとめると(と言うか、2019年の現時点ですでに記憶が風化)、店主さんは昔、東京の超がつくほどの都心にて、割と規模が大きな足ツボマッサージ店を「共同経営」されていた。
けれど色々あり、最終的に相方さんに裏切られて揉めに揉め、店主さんは見切りをつけて故郷に戻ったのだそうだ。

「そうでしたか。色々あったんですね……」
相方さんの言い分を聞いていない私としては、そう返すことしか出来なかったが、心に深く傷が残るご経験だったことはよく分かった。
そして、その傷(感情)は今も未消化であるらしいことも……。

『やはり、人それぞれ何かしらあるものなのだ……』
激痛の中、しんみりとした心情が湧き起こった。……と同時に、気がかりなことも。
『ここまで詳細な内容を、果たして一見の私が聞いてしまってよいものか?さっき神奈川県在住であることも告げたのに、東京にいらっしゃる相方さんを特定出来ちゃいそうなお話で大丈夫?』

どことなくそわそわ緊張する心。
……いや、店主さんご自身はとても良い方であり、急なお願いまで聞いていただいて本当に感謝している。
ただ、足ツボマッサージで体が硬直し、お話で心が張りつめ、少々疲労感が増したような気もする……。

『お店を発見した時に感じた “運命の出逢い”とはなんだったのか?』
わずかに自己不信が募った私は、店主さんに重ね重ねお礼を告げるも、ぐったりとお店を出た。
そして、そのモヤモヤは帰宅直後も続いたのだった……。

ところがぎっちょん!翌午後には、足の疲れが突如快復!
体全体も一挙にフッと軽やかになった。

そればかりか、何故か心までがスッキリ爽快に!
気づけば、旅立ち前に抱えていた重暗い感情までもが、まるっと一掃されていたのだ!(本当にビックリ!)

「なんという素晴らしい手技!おっしゃっていた通り、嘘のようにスッキリだよ!……そっかぁ、やっぱり運命の出逢いだったんだなぁ……。なんてありがたい!」
1日という時を経て、私はあらためて店主さんに感動と感謝の念を送り、思いを馳せた。
「このような優れた技術力があったからこそ、東京での苦い経験は、さぞかし悔しくてやるせなかっただろうな……」

でも、人の幸せは何が正解だったかなんて、最後の最後まで分からない。
それに世間一般で幸せとされていることや、自らが理想や憧れとして抱いていることが、自分にとって本当の幸せとは限らないのだ。

私は信じている。店主さんのご経験全てが、真により良い人生に必ず繋がっていると。
店主さんは導かれているのだ。店主さんにしか果たせない、オリジナルの「足ツボ人生」で、ますます心豊かに健やかに日々を送れるように。
そのようになっていくだろうし、私も心から強く願う。



あの快復マジックは本当にすごかった!
またいつか体験したいです。
体験したらこちらでご報告しますね!