【旅館レポ】岐阜県の飛騨高山「本陣平野屋 花兆庵」
先日、妹の誕生日で飛騨高山を訪れた。7歳年下の妹は大卒1年目のぴちぴち社会人。彼女を喜ばせたい一心でなんと1泊6万円という、私たちにとっては超がつくほどの高級旅館を予約した。
そこでは、金額以上の価値を感じさせてくれる、素晴らしいおもてなしの数々を体験し、宿泊からしばらく経っても興奮冷めやらぬ気持ちでこの記事を書いている。
趣のある高級車でお出迎え
高速バスで高山へ向かった私たちは、野を越え山をこえ高山バスセンターに到着した。バスが停車中、窓から外を覗くと、まるでジェームズ・ボンドでも降りてきそうな高級車が停まっている。
脇には人の良さそうな男性が看板を持ってにこやかに佇んでいた。看板には、この30年背負ってきた見覚えのありすぎる苗字が書いてある、、
確かに予約メールには「バスの到着時間にお迎えにあがります」とあったけど、まさかあのボンドカーのことか?
「お待ちしておりました」
と柔らかな物腰でお迎えしてくれた送迎係の男性は、テキパキと私たちの荷物をトランクに乗せてくれた。恐縮極まりない気持ちで恐る恐る乗り込んだ車(車種は不明)は、内装が全て革で、見たこともないような細やかなレースが掛かっている。走行も実に優雅で、あれは完全にアストンマーティンだ。
余計な手間を取らせないお見送り
アストンマーティンの中で繰り広げた談笑は、私たちの緊張した心を和らげた。車に乗り込むときには顔が納豆みたいにしわくちゃになっていた妹も、スタッフの方の隙がないけど心地よい会話のテンポのおかげで少し潤いを取り戻していた。
旅館で荷物を預け一旦観光する予定だということを告げていたので、車を降りた瞬間、「心ゆくまで高山をお楽しみくださいませ」の言葉と共に、シームレスにお見送りしてくれた。
普段は「いつ頃お戻りですか」「お荷物はお部屋まで運んでおきます」などの言葉があるだろう。ここではその一言が必要ないのだ。「いつ戻っても、俺たちはあんたらを精一杯もてなすぜ」という気概が伝わってくる。もしかして、私たちはこの人たちに命をも預けてしまって良いのかもしれない。そう思わせるほどの安心感を胸に、高山を全身で楽しんだ。
歓迎の太鼓
ひとしきり遊んだあと、疲れた体を引きずり旅館の門をくぐると、どこからか太鼓の音が。ハッと後を振り返ると、さっき私たちを送り迎えしてくれたスタッフさんが、それはもう腰の入った構えで大太鼓をドンドコ叩いていた。
旅館の奥の方からは女将らしき方が、「歓迎の太鼓でございます」とにこやかに言っている。歓迎の太鼓?そんなの数十年間生きてきて生まれて初めてだ。小学生の頃、和太鼓を習っていた私から見ても、スタッフの方の構え、音のハリは素晴らしかった。
お部屋の居心地の良さ
部屋に案内されチェックインの手続きをしているそばから、もう来て良かったと心から感じていた。清潔で明るい部屋。和と洋が違和感なく融合している。
「2人でこんなに部屋いるぅ!?」「全部使お、部屋の隅々まで!!」などといった、風情のカケラもないことを言い合う、なんとも貧乏くさい姉妹である。
なんと言っても、この寝室。ベッドが大きくてふかふかなのはもちろんのこと、なんとマッサージチェアまであるのだ。この旅館はどこまで私たちをくつろがせたら気が澄むのだろうか。怒りすら湧いてくる。
部屋の檜風呂
私たち姉妹が後ほどご紹介する料理の次に咽び泣くほど感動したのが、この部屋風呂だ。
浴槽のドアを開けると、実に豊かな檜の香りが身体中に染み渡る。あぁ、生きてて良かった、、、そう思わざるを得ない。
浴槽の淵に軽く腰掛けると、その手触りの柔らかさたるや、綿菓子の上に座ったのかと勘違いしてしまうほどだ。綿菓子だとしたら私のこの重量感を支えるとんでもなく丈夫な綿菓子だ。というか、綿菓子ではない。
湯は温泉独特のあの滑らかな感触で、いますぐ全裸になって飛び込みたい衝動に駆られた。実際に、部屋でチェックインを済ませた瞬間に1時間くらい入った。
部屋風呂の他にも、旅館前の通りを挟んだ向かいには古民家を改造した温泉や本館の風呂があったらしいが、部屋風呂で満足してしまったので割愛する。
懐石料理とサプライズ
夜は懐石料理を予約していた。この度1番のメインと言ってもいいくらいのイベントだ。風呂から上がり予約時間の5分前に半ば駆け足で料理会場へ向かった。
担当の仲居さんはチェックイン時と同じ方で、まるで天から舞い降りた天使かのような優しい印象の方だ。仲居さんが丁寧に一品ずつ運んできた懐石料理は、もう人生で忘れられない。
一つ一つが細かく作られていて、食べるのがもったいなくなるほど、もはや芸術品。味もちょうど良く、食材の旨みを活かしている。
なんと言ってもやっぱりこの飛騨牛。歯がいらない。口の中で溶ける。脂は新鮮さそのもので、さっぱりした後味だ。ポン酢につけるのもまた良い。
そんなこんなで食事を楽しんでいると、仲居さんが今まで見た中で1番の笑顔でやってきた。そして妹に、
「こちら当旅館の女将から…」
と、個包と手紙を渡し始めた。
なんと、妹の誕生日ということで旅館の方から特別にプレゼントを用意してくださっていたのだ!確かに、予約のときに旅行の目的は伝えていたけど、まさかこんなサプライズが待っていたなんて。
中身は和柄の綺麗なポーチだった。手紙は女将直筆の大変達筆な字で感謝とお祝いが綴られていた。
感動しながらも、きっちりとデザートまで余すことなく完食。
お腹も心も大満足で、部屋に帰った私たちだった。
翌日の朝ごはん
晩御飯をいただいた後は夜の高山を散歩したり、部屋に戻ってお菓子パーティーしたり、檜風呂で風情もへったくれも無いアウフグース選手権をしたりと、私たちらしくゆったり過ごした。
翌日の朝は、いつになく早起きした。理由は言うまでもない。朝ごはんのためだ。
旅行の醍醐味は?と聞かれたら、うちら姉妹は我先に「メシぃ!!」と答える。それくらい食べるのが好きな2人なので、夜ご飯はもちろん朝ごはんもかかせないのだ。
昨晩と同じフロアで同じ仲居さんに案内された。この方は夜通し働かれていたのか、はたまた一度退勤してまた朝出勤されたのか、何にせよ昨日と変わらない輝く笑顔で、このしわくちゃな姉妹を出迎えてくれた。
私が声を大にして言いたいのは、右側に見えるこの葉っぱに乗った葱味噌。魚が乗ってる火鉢で後から軽く温めてご飯と一緒に食べるのだが、これまた絶品なのだ。程よい塩加減と甘みがあって、葱のシャキシャキ感が心地良い。そんなに量は多く無いけど、この量で米3倍はいける。(妹は5杯らしい)
ほとんどが地産地消で、地元愛も感じられた。やっぱり地のものは新鮮で美味い。
旅の終わりに
朝食後に部屋に戻り、少し片付け帰る準備をした。
いつしかテレビで、あの木村拓哉の家族はホテルを出るとき部屋に挨拶する、というエピソードを見てからと言うもの、「心だけはセレブリティ」を謳う我が家族も真似ていた。木村拓哉もチョ、待てよぉ、だろう。
私たちエセセレブリティ姉妹も、「ありがとうございました、お世話になりました。」と感謝の意を伝えた。
チェックアウトを済ませて外へ出ると、昨日ぶりのボンドカーが。車内は相変わらず、ピッチピチの革が高級感を物語っている。送迎の方も同じ人で、送迎中に「私も北陸に何度もお伺いしているのですよ」と、奥様との美しい思い出を語ってくれた。
駅につき、最後の挨拶。送迎の方は、「ぜひ、また高山へお越しくださいませ。」とおっしゃっていた。「本陣平野屋 花兆庵へ」ではないのだ。この一言に、本陣平野屋の素晴らしいおもてなしの精神が表れていた。
今回訪れたのは9月だったけど、きっと秋も冬も春も素晴らしい体験ができるに違いない。なかなかないおもてなしの数々、心踊る料理、美しい部屋と街並み、ゆったりくつろげる風呂。本当に心から利用して良かったと思えたし、また必ず泊まりたい宿の一つとなった。
もし岐阜県に行かれる方は、ぜひ検討してみてはいかがだろうか。
おしまい