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大好きなあとがきのはなし
大好きな、あとがきがある。
私の実感していた
「感受性の強さからくる苦悩と孤独にはほとんど耐えがたいくらいにきつい側面がある。
それでも生きてさえいれば人生はよどみなくすすんでいき、きっとそれはさほど悪いことではないに違いない。
もしも感じやすくても、それをうまく生かしておもしろおかしく生きていくのは不可能ではない。
そのために甘えをなくし、傲慢さを自覚して、冷静さを身につけた方がいい。
多少の工夫で人は自分の思うように生きることができるに違いない」
という信念を、日々苦しく切ない思いをしていることでいつしか乾燥してしまって、外部からのうるおいを求めている、そんな心を持つ人に届けたい。
それだけが私のしたいことだった。
(吉本ばなな「キッチン」文庫版あとがきより抜粋)
吉本ばななの「キッチン」文庫版(新潮社/2002年)に掲載されているあとがきだ。「キッチン」で海燕新人文学賞を受賞した1988年当時からのことを振り返る形で書かれている。
有名な小説だから、読んだことがある人も多いと思う。このあとがきについても、もうたくさんの人がnoteやブログ等で触れているかもしれない。
この本を、わたしは姉からプレゼントされた。
なんだか疲れてしまって、うつうつと、生産的でない毎日を過ごしていた。漠然とした、生きづらさみたいなものを感じていた。
そんなわたしに遠くに住む姉から、事前に何の説明もなく、レターパックが届いた。
開けてみたら、旅行で行ったらしい奄美大島のお土産がバラバラと出てきて、最後に文庫本が一冊。
ハロウィンのお菓子も入っていたから、ちょうど一年ほど前だ。
姉はいつもお土産とプレゼントのセンスがいい。
キッチンというこの有名な小説を、わたしは読んだことがなかった。
ありがたく読ませてもらうと、想像以上に、心に沁みる感覚があって、
ああ、いいな。
素直にそう思った。
吉本ばななの小説は、いつでもあたたかい。
悩んで、困って、苦しんでる人の心に寄り添い続けてくれる。
その場所から引き上げてくれるような強さはないけれど、毛布で包み込んでくれるような、あたたかさがある。
そして、いつもはあまり気にしない、あとがき。
このあとがきに、大げさにいえば、わたしは救われた。
短いあとがきに、優しさもあたたかさも詰まっていた。
自分が感受性が強いかどうかなんてわからないけれど、誰にでも、このあとがきに救われる瞬間があるんじゃないか、と思う。
言葉で人を救うことって、本当にできるんだな、直接かける言葉じゃなくて、活字でも。すごいなあ。
このnoteに載せたものはあとがきの一部にすぎないし、物語のあとに読むことにこそ、あとがきの良さがあると思う。ぜひ、ぜんぶ読んでみてほしい。
驚いたことに、この物語を書いた当時、吉本ばななは今のわたしとそう変わらない年齢なのだ。
あれを、この年齢で書いた。
信じられないし、やっぱりすごい、としかいえない。ほんとうに、すごいと思う。文才ももちろんだけど、それだけじゃなくて、すごい。
わたしにこの本をこのタイミングで送ってくれた姉の、自分にも他人にも厳しくて絶対に優しい言葉なんて言ってくれない姉の、不器用なほんとうの優しさを感じた。
何度でも読み返したい、大切な一冊になった。