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執着と共に生きる

前職である建設現場のしごとを辞めてから、もう1年半ほどが経とうとしている。

辞めるとき、建築のしごとに対する情熱やあこがれと一緒に、ほとんどの道具や本などを手放してしまった。にもかかわらず、ある道具についてだけは、捨てることにどうしても抵抗があり、ついぞ今日まで筆箱に入れたままであった。その道具というのが、この「三角スケール通称、サンスケ」である。

上下に2つ、それが3面ずつ、
合計6つの縮尺で図面を測ることができる。

非常によく使った、なんとも愛着のあるものである。おもに建築図面などを描くときに使われるものなのだが、単純に図面を読むときにも必要なので、界隈では馴染み深いアイテムだった。

僕は、ものに対する執着は、ほぼない。“断捨離”という言葉じたいが潔くて好きだし、ちゃんと実践もしている。本でさえ、どうしても、というものでなければ、図書館で借りるかKindleで買うようにしている。

ただ、

持たない心地よさについては、わかっているつもりであったのだけれど、今回の転職活動をとおして、そしてこのサンスケのおかげで、執着と共に生きるのも悪くはないなと思い直した。捨てる、持たない、ということは、それでも持っていることの大切さに気がつくチャンスにもなる。


2024年に達成したい目標のひとつに、「大河ドラマを観まくる」がある。これはすこぶる順調で、2月現在、2016年放送の『真田丸』にどっぷりと全身で浸かって楽しんでいる。

堺雅人さん演じる真田信繁(幸村)という武将について、僕はこれまであまりよく知らなかった。いや、知ろうとすらしていなかったのかもしれない。どうしても歴史は、勝者によって語られる。よく目立つ、豊臣秀吉や徳川家康ばかりに注目しがちだが、じつは敗者や弱者の歴史にこそ、本当のおもしろさはあるのだと、このドラマを観たことで思い始めている。

その理由のひとつに、真田兄弟の選択がある。この時代の選択は、生きるか死ぬかを分ける大博打となることが多い。

信繁(幸村)には、1〜4歳上の兄(信之)がいた。戦国の世に、天才の父、実直な兄、そして優秀な次男坊である信繁(幸村)がいる。この事実だけでも、いかに真田家が人に恵まれているのかがわかるのだけれど。結局、兄(信之)は、やむを得ない事情もあって、豊臣や真田ではなく、徳川を選んで父や弟と敵対する道をとることになる。

一見すると、「義をとおした弟」と「裏切った兄」という、いかにも対照的な話のように聞こえる。しかし、ドラマを観ていると、その選択を分けた違いは、「豊臣家への執着」でしかないと思った。

再び建築のしごとに戻る身としては、このサンスケを捨てないでいてよかったと言える。これからも、数少ない執着を持てるものと共に生きていくのが楽しみでしかない。

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長屋 正隆 | 4月から建築デザインを学ぶ社会人大学生
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