英国の酒場からのカウンター/パブ・ロックの盛況
今回、ご紹介するのは、パブ・ロックです。
英国の酒場を発祥とする同ジャンルは、その名の通り、パブリック・バーを拠点にライヴ活動するバンドたちによって成立しました。
パブ・ロックは、各ミュージシャンやバンドによって、その音楽性が異なり、カントリー/フォークやブルース/R&Bやファンク/レゲエなど多種多様なジャンルをパブでの演奏に適したスタイルで表現していました。
同ジャンルの転機となったのは、やはりドクター・フィールグッドの存在であり、それまでザ・バンドを中心とするルーツ回帰/南部音楽志向の潮流であったシーンの流れを大きく変え、かつてのロックンロールの熱気を彷彿とさせるサウンドとライヴ・パフォーマンスは、間もなく台頭し始めるパンク・ロックの源流の一つとなります。
大仰化/産業化していくロック・ミュージックに対するカウンターとして機能したパブ・ロックは、低予算での活動を地道に積み重ねた結果、インディ・レーベル/スティッフとハウス・プロデューサー/ニック・ロウによって制作/企画されたカタログやパッケージ・ツアーの盛況という一つの成果を挙げ、文化面におけるささやかな勝利を収める事となったのです。
『Silver Pistol』/Brinsley Schwarz(1972)
作品評価★★★★(4stars)
デビュー時におけるプロモーション活動の大きな失敗によって、巡業を余儀なくされたこの不運なバンドは、結果的にではあるが、盟友/ヘルプ・ユアセルフらと並び、パブ・ロックの旗振り役となり、音楽業界/マーケットに阿らない自主独往の活動を体現してみせた。
ブリンズリー・シュウォーツの3rdは、ロンドン郊外で共同生活を送る中でレコーディングされ、二人の作家/ニック・ロウとイアン・ゴムを擁する彼らは、米国のレイドバック・サウンドと英国の気質/情緒が共存するフォーク/カントリー・ロックによって、改めて大衆音楽の原点/庶民性に立ち返った。
同ジャンルの市民権を得る頃には、同シーンの中で枝分かれした彼らだが、特筆に値すべきメンバーは、やはりニック・ロウであり、自身のソロ/デイヴ・エドモンズとのロックパイル/パンク・バンドのプロデュース業とまさに八面六臂の活躍によって、同時代における功労者の一人となったのである。
『Down By The Jetty』/Dr.Feelgood(1975)
作品評価★★★★(4stars)
英エセックス州の小さな島/オイル・シティから現れた反骨精神を表す面構えの彼らは、衝撃的なステージ・パフォーマンスによってシーンを制圧し、ザ・フーのロールモデルの一つであるジョニー・キッド&ザ・パイレーツの楽曲から拝借したそのバンド名を巷に轟かせた。
ドクター・フィールグッドのデビュー・アルバムは、ヴィク・メイルのプロデュースによって制作され、ブルース/R&Bを下敷きにしたスタイルを持つ彼らは、そのソリッド且つタイトなサウンドと無骨な性質によって、ストーンズやソニックス、あるいはストゥージズとも異なるスリリングなロックンロールを確立させた。
パブ・ロックの象徴的な存在となったドクター・フィールグッドは、真骨頂を発揮したライヴ盤でピークに達し、同ジャンルの枠組みを越えた反動によって不和が生じたが、バンドが身を粉にして展開した熱狂的なクラブ・サーキットは、多くのパンク・ロック世代を焚き付ける事となったのである。
『New Boots And Panties!!』/Ian Dully(1977)
作品評価★★★★☆(4.5stars)
この風変わりなパブ・ロッカーは、30代の所帯持ちでありながら音楽活動に身を乗り出し、前身バンドのキルバーン&ザ・ハイ・ローズでの不遇を経てもなお、しぶとく這い蹲り、ソロ名義での再デビューに漕ぎ着けた。
イアン・デューリーの1stは、改めて結成されたブロックヘッズと共に制作されており、下町訛りのアイロニカルに満ちた詩人は、チャズ・ジャンケルたちによるファンク色の濃いサウンド/演出の下、猥雑な場末を舞台にしたロックンロール/喜劇を繰り広げた。
放送禁止のヒット曲を世に送り出したデューリーは、パブ・ロック/パンク・ムーヴメントの沈静化と共に、次第に活動の主体を俳優業へと傾けていくが、同時期における彼は、その極めて英国的な作家性によって、レイ・デイヴィスらと並び、同国のロックに文学的な豊かさをもたらしたのである。
『My Aim Is True』/Elvis Costello(1977)
作品評価★★★★☆(4.5stars)
ロンドン/リヴァプールのパブ・ロック・シーンでの長い下積みを経たデクラン・パトリック・マクナマスは、スティッフによる際どい戦略の下、ロックンロールの王/エルヴィス・プレスリーが逝去した年に、「エルヴィス」という名を冠したステージ・ネームで運命めいたデビューを飾った。
エルヴィス・コステロによる記念すべき処女作は、パブ・ロック界の重鎮/ニック・ロウのプロデュースの下、米国のパブ・バンド/クローバーとのセッションで制作され、既に音楽的な素養を身に付けていたパンク世代のロックンローラーは、その英国的な視点と同時代の先鋭的な感性によって、鮮やかにオールディーズを復古/再定義してみせた。
翌年、盟友/アトラクションを率いたコステロは、ニュー・ウェイヴの旗手として数年間に及ぶ快進撃を展開していく事になるのだが、彼のTボーン・バーネットがプロデュースを務めた中期の代表作が示す通り、ヴァン・モリソンたちと同じく、大衆音楽の遺産/ルーツへの回帰/探求を宿命付けられていた作家だったと言えるだろう。
それでは、今日ご紹介したアルバムの中から筆者が印象的だった楽曲を♪
おまけ♪