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たった2文字で

「あのね」
「あのね」



「あのね、聞こえる?」

「くすぐったいよ、早く話して~」


小学生の頃。
糸電話で話すと、目の前にいる友達の声が、耳のすぐそこで聞こえる。くすぐったくてたまらない。

「あのね!」



今度は糸電話の両端から2人で同時に言い合って、向かい合って目が合う。どっちも相手の声を聞いていないし、目が合うから、恥ずかしさの極致で小学校の床でころがりまわって、


「○○ちゃんおかしいよ~」
「○○ちゃんもきいてないよ~」

友達と笑いあった。


さわれなくて、カタチもないのに、
声っていつもくすぐったい。


どうして文字があるのに、声で言葉を届けたいと願うのだろう。

またある時は、

声があるのに、文字で言葉を届けたいと願うのだろう。

表現はそこかしこに、のぞいている。

絵描きさんは、絵を描いて。
歌い手さんは、音の調べにのせて。
踊り子さんは、体中をつかって。
料理家さんは、ごはんをつくって。
ライターさんは、文字をつかって。

表現するところに、いつも人の『想い』がある気がする。

noteを読んでいると、多彩な言葉の表現にいつも圧倒される。
どうして、ひとつの場面を、こんなに、こんなに、言葉で豊かに表現できるのだろう。

直接会えない人たちの言葉に元気をもらう瞬間もあれば、その才能や努力のパワーに、どどどどーーっと圧倒されてしまい、自分の書く手が止まってしまう。

「ああ、もっと糸電話で遊んだあとに、学生の時に国語の勉強しておけばよかった」ちょっと後悔がにじみながら、つたない言葉でもnoteの投稿を続けながら、他の人のnoteをよく読むようになった。

世界がぐんぐんひろがって、言葉のもつチカラに今頃になって気付いてしまった。




ある日、
「ああ、〇〇だ」
という一文が目に飛びこんできた。
なんの歌詞か、詩か、もう忘れてしまったけれど、


思わず、
「ああ」
と声にした。


 「あ」の2つの母音の連なりが余韻のように響いた。


かなしい「ああ……」
うれしい「ああっ」
落胆する「あぁ」
筋トレでしんどくなったときの「あ”ぁ”!」
もうなにが、なんだかわからなくて「ああ、ああ、ああ」言ったりする。

胸ぐらを鷲づかみにされるような、感情の揺さぶりはないけれど、胸いっぱいに広がっていく、ため息のような言葉。文字にすれば、たったの2文字。

たった2文字の言葉の表現がじわり、じわり、楽しく思えてくる。

また別の日。

「わあ」と声がこぼれた。


よく眠れなかった朝。しぶしぶカーテンを開けてみると、絵にかいたような朝焼けが広がっていた。その朝焼けが消えないうちに、散歩に出ようと急いで支度をする。軽くストレッチをし、手早く着替えて、パーカーを羽織り、ドアに鍵をして、外に飛びだして大通りを曲がると、空いっぱいに折り重なるグラデーションの眩しさに、息をのんだ。

まさに「わあ」だった。


朝日に照らされた、朝つゆ。冷たい空気に、白い息を吐く。どんなに冷たくても、わたしの指がかじかんでいても、世界は目覚めて息をするように照らされていく。
夜型人間だったので朝焼けが、やけに特別なものに思えて仕方なかった。

「繰り返される日常は尊い」と何かのエッセイで読んだことはあったけれど、たしかに、たしかに、その通りだった。そして繰り返される日常は、同じように繰り返していても、同じ日はないと思う。


仕事を辞めて、手術をしてからというもの、体力ががくんと落ちてしまった。リハビリがてらに秋から散歩を始めた。以前と比べれば歩幅は小さくなって、少し歩くと息切れをすぐに起こした。

休むたびに立ち止まって、写真を撮った。


今まで気づかなかった目に映る景色が、とても鮮明にみえて、ひとつひとつが愛おしく思えた。体力が戻ってくると、夫と一緒に行った、小さな公園まで歩くようになれた。その公園で、30代40代のいい大人2人が、そろいもそろって、逆上がりができずに「あれ~」と鉄棒にぶら下がり、腕の力のなさに笑いあったけ。


夫にLINEを送る。

糸電話でもないのに、もう恋人でもないのに、どうしてこうも、いつもくすぐったいのだろう。どんな返事が返ってくるのか、来ないのか。
短い文字に、想いをたくす。

ねぇ、目を合さなくてもいいから。会話にならない話でも聞いて。
たった2文字でもいいから、返事がほしい。

その言葉の先にはきっと想いがあると信じているから。


糸電話のように目があうと、きっと恥ずかしいから、
あなたへ、世界へ、そっと送る。


#モノカキングダム2024  応募作品です




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chimo
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