あの低めの音を響かせて
半年程前、ある友人に連絡を取ろうとするとLINEアカウントが消えていて、SNSの方もアカウントが削除されていた。嫌な予感がして、なんとか電話番号を探して連絡をすると返信が返ってきた。本当に死んだんじゃないかと思っていたので、ほっと胸を撫で下ろしたのを覚えている。
メッセージでやり取りをすると、色々と思い悩んでいたようだったが、それとは裏腹に生活は充実していることが分かって安心した。各アカウントを削除した理由は、「人数を絞ろうと思ったら面倒になったから」という彼らしい理由だった。
僕が連絡を取ろうと思った理由は借りていた2万円の返済をもう少し待って欲しいと頼むためだった。メッセージの流れで、「2万円返すのもうちょい待ってくれへんか?」と尋ねると、「そんなんいつでもええ」と返ってきた。僕は、「ありがとう。お言葉に甘えてゆっくり返済させてもらいやす」とメッセージを送った。
今日ようやく、約半年かけて2万円を返済した。1度も催促はされず、金を返すと「ん」とだけ言った。
思い返せば、昔はお互いに金を貸し借りしていた。友人関係に金を挟んではいけないとよく言うが、僕達は常に金で繋がっていた。2人とも金にはだらしなさすぎたせいか、逆に金で揉めたことは1度もなかった。
現在は、一流企業に勤める彼から金を借りるばかりになってしまっていてどこか物寂しい。
そんなことを考えながら、昔と同じように激安居酒屋の大ジョッキで乾杯をする。グラスの重さから少し低めの音が鳴り、物寂しさを助長させた。
ほろ酔いの帰り道、「もうちょい金稼いだら旨いもん奢ってくれ」と彼に言った。「なんでお前とええ飯食わなあかんねん。もったいないわ、ええ飯が」と彼が答えて、2人で笑った。
「また乾杯しよう。いくつになっても、あの低めの音を響かせて」
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