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2023年7,8月 読書

6月は全く読書意欲が湧かず、1冊も読まなかった。義務的になると、そもそもの読書をする歓びから外れることになるので。まあ積ん読も溜まるばかりなので、数冊でもいいから消化していく。頑張って日本三大奇書も読みます。



18,人獣細工/小林泰三

パッチワーク・ガール。そう。
私は継ぎはぎ娘。
その傷痕の下には私のものではない臓器が埋められている。傷痕を見ていると皮膚が透けて、臓器がゆっくりと蠢動し、じゅくじゅくと液体が染み出してくるのが見える――。

豚の臓器を全身に移植された少女の絶望を描く表題作ほか、圧倒的な知識と想像力で描き出された2編を収録。

『玩具修理者』『アリス殺し』を生み出したグロテスク・ホラーの鬼才による、内臓の匂い漂う傑作短編集が新装版で登場!

最近TikTokerが紹介していたようで。こんなこと書くと負け惜しみのようだけど、一切影響は受けていない。たまたまだ。件の紹介動画は、表題作の「人獣細工」だけのあらすじをざっくりと説明していた。

読んだ感想として有り体に言ってテセウスの船だなと感じた。小林泰三は思考実験を下地にして、スプラッタを交えた作品が多いような気がする。そこまで読んでないので確証がないが。人獣細工もそれに則った作品で、「玩具修理者」と同じ感覚だと思いながら読み終えた。

他にも「吸血狩り」と「本」という短編が収録されている。この「本」という作品が凄い。ぜひ読んでほしい、としか言えない。野暮ったいので。「吸血狩り」も面白かったんだけど…ネタバレなしに感想が書けないので割愛。



19,流血の魔術最強の演技―すべてのプロレスはショーである/ミスター高橋

日本にプロレスが誕生して以来の最大にして最後のタブーを初公開!!

「プロレスは完成されたエンターテインメントなのだ!!」

新日本プロレスのレフェリーとして、アントニオ猪木、坂口征二、藤波辰爾、長州力らの試合をもっとも数多く裁いてきた男が、プロレスを愛するがゆえに、ついに「魔術と演技」の真実を明らかにする!!

プロレスの暴露本としては、たぶんトップクラスに有名。完全に勝ち負けが最初から決まっている、相手の協力なしにプロレス技は成立しないなどと明言されていて、まあそりゃそうだと思いつつも、梯子を外された気分だった。猪木は勝てる奴には息巻いてるとか、外国人レスラーにビビってたとか、ちょっと悲しくなった。

暴露系はやっぱり肌に合わないとつくづく思う。VTuberが名義とガワを取っ払って、古巣の悪口言ってるときくらい哀れな気持ちになる。負の側面を見たって悲しくなるだけなのだ。

他にも色々含む所があるが、ここに書くとあまりにも量が多くなりそうだし、本の感想の体から大きく逸脱してしまうので書かないことにする。


20,むらさきのスカートの女/今村夏子

近所に住む「むらさきのスカートの女」と呼ばれる女性のことが、気になって仕方のない〈わたし〉は、彼女と「ともだち」になるために、自分と同じ職場で働きだすように誘導し……。

ページがさほど多くないので、1時間半かからないくらいで読めた。「むらさきのスカートの女」というのは地域にいる変な人のことを指している。

主人公…と呼ぶべきか、むらさきのスカートの女を観察する人間の視点で話は進行していく。 むらさきのスカートの女自体は早々にマトモな人間になるが、観察者と周りをとりまく人間の異常性が笑ってしまうくらいあからさまになってくる。

誰もが正常であるように振る舞うけど、隠し切れない"攻撃性"と"普通"とのズレを秘めている。怖いなぁ。

短いエッセイ集も数編収録されており、それも含めて完成している作品だと思った。作家は体験したことしか書けない、というのはいささか飛躍した考えだと感じるけど、やはり体験談こそが発想のスタートになりやすいものだと再認識した。



21,少年と犬/馳星周

傷つき、悩み、惑う人びとに寄り添っていたのは、一匹の犬だった――。

2011年秋、仙台。震災で職を失った和正は、認知症の母とその母を介護する姉の生活を支えようと、犯罪まがいの仕事をしていた。ある日和正は、コンビニで、ガリガリに痩せた野良犬を拾う。多聞という名らしいその犬は賢く、和正はすぐに魅了された。その直後、和正はさらにギャラのいい窃盗団の運転手役の仕事を依頼され、金のために引き受けることに。そして多聞を同行させると仕事はうまくいき、多聞は和正の「守り神」になった。だが、多聞はいつもなぜか南の方角に顔を向けていた。多聞は何を求め、どこに行こうとしているのか……

良かった。ぼろぼろ泣いちゃった。登場人物みんな何らかの欠陥を抱えていて、それを多聞が救ってくれる。正直言って短編のほとんどが最良とは言い難い結末を迎えるのだが、不快さなど一切ない。

安易にカタルシスなどと言いたくないが、そもそもは悲劇を見ることにより浄化されるらしい。「少年と犬」を悲劇と見るかどうかはさておいて正しい終わり方ではあるんじゃないかな、と思った。

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