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軍事アナリスト小泉悠さんの分析本「ウクライナ戦争」

本(ウクライナ戦争)

遅くなりましたが、今年の正月休みに読んだ本です。ロシアによるウクライナ侵攻について考察した本で、筆者の小泉悠さんは度々メディアにも登場するロシアの軍事研究者で、敢えて侵攻ではなくウクライナ戦争としたことで、その悲惨な実態を伝えようとしたものです。

侵攻から1年を経過してなおも続くこの戦争の特集番組で、筆者がこの1年の予測が結果的に違っていたことを反省していましたが、戦争の当事者同士は勿論、第三者からみても予測は困難であったと結果論的にも言えると思います。

当初プーチン率いるロシアが描いた構想「特別軍事作戦」は、軍隊は投入するが、威嚇するだけで激しい戦闘を伴わないものであり、首都キーウを占拠してウクライナ指導部を無力化することでした。つまり大統領のゼレンスキーの首を取ることで、これで侵攻は完了するとの楽観的な予測でした。

それを裏付けるものとして、「ウクライナ人は弱い」との民族主義的優越感があったと分析しています。そして最後の章であくまでも筆者の推測としていますが、プーチンのウクライナ侵攻の目的は、ロシア人とウクライナ人は元来同じ民族で、そのルーシ民族の再統一することであり、それこそが自分に課せられた使命だと信じているというものです。

ただ当初首都陥落まで3日との楽観的かつ強引な予測は、ウクライナ軍の予想外の徹底抗戦で長期化することになったことは、侵攻1年後の事実が物語っています。

現代は単なる銃器の攻防に限らないハイブリッド戦争の様相が特徴ですが、今回ロシアが苦戦した原因の1つに情報戦での劣勢が挙げられると言います。アメリカなどの軍事衛星による監視やSNSなどの情報拡散により、旧態依然としたロシアの軍事行動作戦が曝け出されたというものです。

ソ連崩壊後は、ロシア単独ではNATO勢力に対抗できないため、核の脅威をちらつかせて、参戦を思い留まらせようとの策略がありますが、これは逆に言えばアメリカとしてもウクライナへの参戦を躊躇するのは、ロシアと同じ思惑があるということ。つまりは第三次世界大戦の回避が、最終的な両国の一致した見解であるとしています。

ロシアが軍事行動を正当化する理由も変節しており、もはや客観的かつ正当な理論は成立しづらくなっていますが、筆者に限らずこの戦争の終結への予測は、当事者を始め誰にも展望が見えないというのが現状だと思います。

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