見出し画像

都会で生の自然を摂取する場所を確保した

週に一度新しい花を生けて、季節の移ろいを感じ、いま無事に過ごせていることに感謝する。

そんな丁寧な暮らしをしてみたいと、今までに何度も何度も思い立って、何度も何度も花を買ったことがあるが、いまだに全く習慣になっていないし、そのような暮らしが習慣化している友人や知人はいない。

丁寧な暮らしを体現しているあの素敵な人たちはSNSの中にだけいるフィクションなのではないだろうか。

都会に暮らしていると、草花の香りを感じることが本当にない。田舎で暮らしていた子供の頃は、きっと季節を感じる自然の香りの隣にいただろうが、その頃の私はとにかく田舎っぽいもの全てに敵意を向けていたから、匂いのことなんて全く記憶にない。

今、アスファルトと混雑した電車と隣同士が近くて小さな家とそこから見上げる狭い空の暮らしの中で、一番よく感じる草花の匂いは、会社を辞めるときに先輩におねだりして買ってもらった高級香水のチュベローズの香りだ。高級すぎて節約しながら使っている。2日に1回感じる香り。あとは、小松菜を茹でたときの青い匂いくらいだ。

そんな私だが、新鮮な花の匂いが感じられる場所を一つ持っている。図書館の帰り道の角を曲がったところにある作業場だ。

初めて通った時、鼻にダイレクトに届いた生花の匂いに、大きなお花屋さんがあるのか?と辺りを見たが、そうではなかった。どうやらそこは祝い花などを作っている専門の作業場所のようだった。

日常生活であまり嗅ぐことのできない、なまの、生きている草花の匂いに、自転車を止めて味わいたいのだが、恥ずかしいので速度を落として通り過ぎている。
さらに、いつもスタッフが本当に忙しそうに、二箇所ある入り口を行ったり来たり走り回って作業をしている様子が伝わってくる。

毎日毎日大量の祝い花を作る人たちは、もう生花の匂いには飽き飽きしているのだろうか、それともやはり良い香りに包まれて仕事ができて嬉しく思うのだろうか。

あのスタンド花はどの劇場やお店に行くのだろうか、と想像しながら、都会の生活に足りていない、生の自然を通りすがりに摂取している。



この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?