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【読書⑦】~『新版・一流の頭脳 運動脳』を読んで~

8月も最終日。

夏休みも終わりです。

2学期が始まりますが、始業式から関東にも“台風直撃”となりそうです。

そんな中、今回の投稿で紹介する本は、昨年の秋から冬にかけて読んだ書籍です。

実は、もう読み終えてから1年近く経ってしまいました。笑

この書籍は、昨年、たまたま本屋で積まれているのを見つけ、つい手に取ってそのまま購入してしまいました。

スウェーデンの精神科医であるアンデシュ・ハンセン氏が著した書籍で、書籍の帯には「人口1000万人のスウェーデンで67万部超!」「日本国内25万部!!」とあり、ベストセラーの書籍です。

本書の内容を簡単にざっくりまとめると、

○現代人も脳は原始人の時代と一緒であり、獲物を狩って食料を確保する(=運動する)ことに喜び、報酬を感じる。

○日頃からほんの少しでも運動をすれば、健康の維持、精神の安定、ストレス解消、集中力の向上、モチベーションの向上、記憶力の向上、創造性の発揮、学力の向上など、さまざまな面で良い影響がある。

という感じになります。

運動がいかにわれわれに良い影響を与えるか、という点をいろいろな実験、検証、分析、研究を紹介しながら詳細に解説されています。

前々回の投稿【まとめ①】~野球において必要なトレーニング~で、「野球という競技の特性上、あまり心肺持久力は必要としない」、「持久力トレーニングに多くの時間や労力を割く必要性は低い」と述べました。

近年では、多くの有名人や一流のプロ野球選手の中でも、そのことを指摘する方々も増えてきたように思います。

“野球の競技力向上のためのトレーニング”という枠組みだけで見ると必要性は低いのかもしれませんが、本書を読み、“高校生の学力を含む人間的な成長”という大きな枠組みで考えると、ジョギングやランニングといった走運動(長距離走)のとらえ方が変わります。

今回の投稿では、本書を読んで、考えたことをこの点に絞ってまとめてみようと思います。

運動による海馬の成長

本書の第5章「『記憶力』を極限まで高める」の内容から抜粋して、紹介します。

まず、アメリカの研究チームが120人の被験者を対象に行った実験です。

被験者を無作為に2つのグループに分け、一方のグループは心拍数の上がる持久力系トレーニングを、もう一方は心拍数の増えないストレッチなどの軽いエクササイズを行ってもらい、1年間の間隔を空けてMRIで脳をスキャンして海馬の大きさを測るというものです。

海馬とは、脳の両側に1つずつ備わった親指大ほどの器官であり、記憶、感情の制御、空間認識の機能を司っています。

引用: https://brainsuite.jp/articles-kaiba

1年後、どちらのグループも健康状態は改善していたが、海馬を比べると差が表れました。

持久力系トレーニングを行った被験者たちの海馬は、まったく縮むことなく、それどころか成長して2%ほど大きくなっていたというのです。

もう一方のグループは、1.4%の縮小という結果だったそうです。

脳の大きさは25歳がピークで、その後は年齢とともに小さくなっていき、1日10万個の細胞が日々死滅していっています。

海馬も本来は1年間で約1%縮むものだそうなので、この海馬の成長は“2歳若返った”ほどの成長であり、驚きの結果になります。

この実験から、心拍数が上がる持久力系トレーニングを継続的に行うことで、海馬が成長し、それによって記憶力・感情のコントロール・空間認識能力が高まるということがいえます。

高校生だと、まだ脳も成長過程になるかと思いますので、縮小を食い止める大人の実験結果以上に、良い効果が表れるのではないか、と感じます。

第7章「『学力』を伸ばす」の中では、海馬が大きくなることで、読解力などの学力が高まるということが紹介されています。

また、第5章の中でも、「持久力系のトレーニングを定期的に3か月続けた場合、単語を暗記する能力がかなり上がる」という実験結果も紹介されています。

野球の競技パフォーマンスの向上という観点だけで見れば、長距離走などの持久力系トレーニングは優先順位の低くなるのかもしれませんが、やはり高校生の“人間的成長”という形で大きくとらえると、こういったトレーニングを部活動の中で取り組んでいくことは大切なのかもしれません。

適切な運動量

では、話は変わりますが、どのくらいの運動量が適切なのでしょうか。

先ほどの実験で持久力系トレーニングを行っていたグループの取り組んだ運動量は、1回40分を早足で歩くのを週3回やっただけだったそうです。

被験者の年齢がわからないため何とも言えませんが、早足で歩いたり走ったりするだけで脳の老化を食い止め、むしろ若返らせるようです。

また、“暗記”という範囲に限ると、ウォーキングや軽いジョギングが最も効果があり、疲労を覚えるほど運動するとかえって逆効果だそうです。

他にも、こんな実験が紹介されていました。

アメリカの研究チームがたくさんのマウスから走るのが好きなマウスを選んで交配していき、人間が20~30km走るのに等しい距離を1日で走ることができるマウスを誕生させ、迷路に入れたところ、普通のマウスよりも迷路を抜けるのに時間がかかり、記憶力が悪く、ストレスホルモンの濃度も高かったそうです。

このことから、走りすぎる過酷な運動は脳や記憶力という面ではマイナス面のほうが大きく脳にとって良い運動量には限度があるということがわかります。

若者の運動と体力

第7章「『学力』を伸ばす」の中で、若者の体力と知能について解説されています。

スウェーデンでは2010年までスウェーデンでは18歳の男子全員が軍の入隊検査を受けることが義務付けられており、そのデータから以下のことがわかったそうです。

○体力テストの結果が良かった新兵は、他の新兵よりも知能指数が高かった。

○知能指数の高さと相関があったのは持久力のみで、筋力とは無関係だった。

○知能検査で測れる能力のすべてが体力と関わっている。特に論理的思考力と言語理解力が体力との相関性が強い。

○18歳のときに体力のあった若者は、高い学歴を経て、40歳前後の時点で報酬の良い仕事に就いている。

○18歳のときに体力のあった若者は、うつ状態になる確率も低く、てんかんや認知症の発症リスクも少なかった。

この内容からは、高校生までのうちに“しっかりと体力(持久力)をつけておく”ことは、今後の子どもたちの人生を考えると非常に大事なことになります。

さいごに

以上までのことから、持久力系のトレーニングは、もちろん野球パフォーマンスの向上という観点だけでなく、子どもの脳の成長、学力・記憶力の向上、子どもの今後の人生という観点を踏まえても、“必要だけどやりすぎないように”というのが結論になるのかな、と感じます。

長距離走などといった持久力系のトレーニングがメインにならなかったとしても、部活動で運動部に属している高校生は日々ハードな練習をこなしていますし、高校生は学校によっては週2~3回体育の授業もあります。

学生の本分は学習ですので、疲れて授業中に寝てしまっても困ります。

そういうことを踏まえると、野球の練習における長距離を走るランニングは、ウォーミングアップでの集団走や、クールダウン時に行うようなジョギングで十分なのかな、とも考えさせられます。

このように学べば学ぶほど、けがの予防、競技パフォーマンスの向上、学力の向上、子どもたちの今後の人生などのすべてを網羅して補うことは非常に難しいなぁ、と感じてしまいます。

そうすると、結局のところ、前回の投稿にも書いたように、それぞれのトレーニングの目的や意味を十分に理解し、限られた期間の中でどのトレーニングに比重を占めていくのかを考え、子どもたちの学校生活や身体の状態を考慮しながら、計画を立てていくしかないのかな、と思います。

今回の投稿では『新版・一流の頭脳 運動脳』を読んで感じたことを、野球におけるトレーニング・長距離走・持久力といった観点に絞って書きました。

『新版・一流の頭脳 運動脳』の一部の内容しか触れていませんので、投稿を読んでいただいた方には、期待外れの内容だった方もいるかと思います。

そのような方がいましたら、申し訳ありません。

投稿を読んでいただき、本書に興味を持たれた方は、ぜひご自身で本書をお読みになってみてください。

また、野球における“走り込み”にはさまざまな考え方があります。

参考になる動画のリンクを添付しておきますので、興味がありましたら、ぜひご覧になってみてください。

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