創造的な思考とは、貯めたアイデアの編集力で決まる(「思考の整理学」)
自分の独創的な意見を持って、人を説得するのが苦手だ。
勉強や読書はそれなりにしているつもりだ。でも、そこからエッセンスを抜き出した後に、自分の主張を紡ぎ出すことが下手くそだった。
今回、外山滋比古氏の「思考の整理学」を読んだ。学びが多かったので、共有する。
■■本の趣旨
■教えてもらう学習ではなく、自分の頭で考える学習へ
この本は1986年に書かれた本だ。コンピューターが誕生し、機械の情報処理能力に人間が取って代わられることを危惧している。
機械にはできない、自分で問いを立て考える力、つまり創造的な思考が重要だ。
本のなかでは、「グライダー」と「飛行機」という言葉で表現されている。グライダーは空を飛ぶこと自体はできるが、エンジンを積んでいないので飛行距離に限界がある。
一方、飛行機は自分の力で、自由にのびのびと飛んでいける。この独創性の培い方を説明した本である。
■思考の整理とは、そもそも何か
中盤で面白い指摘がある。少しかみ砕くと、こうだ。
●思考の整理とは、低次の思考を抽象のハシゴを登って、メタ化して行くことにほかならない
●思考の整理とは、重要なもの以外を捨てることではなく、思考をより高い抽象度に質的変化(メタ化)させることだ
なるほど。情報をただ集めて取捨選択するだけじゃなく、それらを抽象化させたり、統合したりして、知識を体系化させる一連の所作を「思考の整理」としているのか。
■■本題:具体的に思考を整理するためには
ここからは一部説明の順序や内容を変えて、自分なりに分かりやすく整理してみた。特に見出しの付け方は、同書にない表現を用いている。
しかし、エッセンスは最大限損なわないように気を配ったつもりだ。いわばこの本の内容を、私なりに「整理」してみたということだ。
■情報収集:ふと気が付いたことを書き留めておく
アイデアは忘れてしまうため、小まめにメモするべき。
かつ、そのままでは使えないことが多いため、寝かせておくのが良いそうだ。筆者の外山氏は2種類のノートを作り、自分の疑問や仮説を日付といっしょにまとめているそうだ。
●思い付きノート
●メタ・ノート
前者の「思い付きノート」は、特別名前がなかったので私がつけた。意味は読んで字のごとくである。外山氏の例を借りると、こういう風にメモする。
・疑問:なんで言葉は文章として一連の並びになると、音読したときに、意味が頭にすっと入ってくるのだろうか?
・仮説:慣性の法則のように、前の言葉と後の言葉のすき間を埋めるように、脳が処理するのでないか?
・日付
これらが前者に貯まったら、後者に【言葉】とか【リズム】に関するページを作り、それらを入れていく。同じテーマから仮説を裏付けるアイデアを紐付けていくそうだ。
この項を読んだ時に、私は「アイデアのつくり方(ジェームスWヤング)」という本を読んだときに見つけた「アイデアとは組み合わせである」という言葉を思い出した。プロセスは似ている。
また、船登惟希氏の「サマる技術」にも、メタ化した情報を貯めて自分だけの情報リストをEvernoteやGoogleドライブに保存していく手法が紹介されていた。これにも似ているな。
■情報編集:情報自体ではなく、編集することに独創性を働かす
こちらは、上記のノートの作り方(メタ化の仕方)を補足する項ともいえる。
●ポイント:エディターシップとは
自分の個性や才能を縦横に発揮して、ケンランたる紙面を作り出すことではない。むしろ、自分の好みを殺して、執筆者と読者との化合を成立する媒介者として中立的に機能すること。発想の母体は触媒としての個性である。発想がおもしろいのではなく、発想を結び付ける知識や事象から生まれるものがおもしろい。
●ポイント:「カクテル論文」を目指す
ものを考え、新しい思考を生み出す第一の条件は、あくまで独創である。自分の頭で出した着想が必要である。しかし、それを振り回していていは説得力がない。すぐれた学術論文は、既存アイデアを尊重し、特定のアイデアだけを優遇せず、調和折衷する。「カクテル」は色々な果実やスピリットをバランスを考えて混ぜて作るためことの例え。
上記ポイント2点を簡単にまとめると、一つの尖ったアイデアよりも、情報を吟味し並びや関係性を考えて、編集することが創造的思考には必要だということだろう。
■情報発信:書く、しゃべる、そして畑違いの仲間と語る
最後はアウトプットの方法や注意点について、書かれていた。
卒論に取り組んだことのある人なら分かるかもしれないが、とりあえずペンやキーボードを動かしてみると、何で自分の理解が躓いているかが分かる。
また、書いているうちに思わぬアイデアが浮かぶこともある。そのため最初から秀逸な文章を書こうとせずに、集めた情報をひたすらにアウトプットして、後で磨く作業は大切だ。
書くだけでなく、話す、語らうことも同様。
●ポイント:平家物語と琵琶法師の例
「平家物語」は大変込み入ったストーリーラインであるにもかかわらず、内容が整然と入ってくる。これは、ひとりの作者の手柄ではなく、話し手である琵琶法師が口伝えするなかで、表現が磨かれていったためである。集団的功績ともいえる。
●ポイント:垣根を超えること
気心がしれて、しかもなるべく縁のうすいことをしている人同士が集まって、現実離れした話をすると触媒作用による発見が期待できる、違う分野同士のひとが雑談の時間を取って、積極的に発信し合う。
ちょっと面白かったのが、目上の立場の人や知識のある専門家に、意気揚々とアイデアを語ると、馬鹿にされたり否定されたりするので、「相手を選べ」といった趣旨のことも書かれていた(笑)。
■■まとめ
■本の言いたいこと
●思考の整理とは、低次の思考を抽象のハシゴを登って、メタ化して行くことにほかならない
●思考の整理とは、重要なもの以外を捨てることではなく、思考をより高い抽象度に質的変化(メタ化)させることだ
このために日ごろから情報収集し、編集の時は上手くメタ化し、発信することで、独創的なアイデアを磨く。
■余談と実際にやってみたこと
これは完全に余談なのだが、私は最近人生初の引っ越しを経験し、同居人がいない日は慣れない料理をしたりしている。苦労の日々である。
私は「肉食べたい」と思ってスーパーに行ったが、買うべきものが分からなかった。そもそも食べたいも料理が抽象的すぎた。例えば「牛肉のしぐれ煮」という名前が分かれば、必要なものをイメージしたり、ググったりできた。
そこで「料理が下手な人は、そもそも料理名を知らないのではないか? だから使う具材や調理法が想像できないのではないか?」という仮説を立てた。
これには筋トレを始めたとき発見したアナロジーが生きている。
「【腕】のトレーニングとして考えるのではなく、【上腕二頭筋】【三角筋】…ととらえて、鍛え方を細分化した方が鍛えやすく、成長が早い」という経験である。
ここから【素人が上達させる方法】とか、【売り手が(潜在的な)買い手に、振り向いてもらうための情報の届け方】とかに応用できそうだ(知らんがな)。
サポートしてくれた方、いつでも靴を磨かれに来てください。