メディアと社会を横断的に見れるPRパーソン、暗躍しすぎ(戦争広告代理店)
「戦争広告代理店」があまりに衝撃的だったので、自分なりにまとめてみました。
この本は「PR会社の暗躍」や「情報操作」など、読む人によって感じるものが様々な本かと思います。
■■本書の概要
・ソ連崩壊後のボスニア・ヘルツェゴビナ対セルビアの情報戦を描いている
・米国PR会社に勤めるジム・ハーフが米国国内や国際世論をどう操作していったか
・NHK記者の高木氏の丁寧な取材や調査によってひも解かれている
ボスニア・ヘルツェゴビナが「被害者」で、セルビアが「悪者」であるという善悪二元論をどう作っていったのか。
怖いと思いつつ読む手が止まらない、学びが多い本です。
■■そもそもPRとは?
本書の感想に入る前にひとつ。
PRはPublic Relationsの略ですが、ちゃんと定義を調べたことはありませんでした。アメリカPR協会が定めた定義を見てみます。
“Public relations is a strategic communication process that builds mutually beneficial relationships between organizations and their publics.”
"<和訳>パブリックリレーションズとは、組織と組織をとりまくパブリックの間の、相互に利益のある関係を築く戦略的コミュニケーションのプロセスである。"
https://www.prsa.org/all-about-pr/
http://www.dentsu-pr.co.jp/pr/beginners.html
なるほど、特定の組織とその周辺の人たち(パブリック)の間にあるコミュニケーションを、お互いが得するように設計していく諸活動なんですね。
では「PRパーソン(PRに従事する人)」の仕事って具体的にどういうことなんでしょうか。
ベンチャー広報の野澤さんが書かれた「逆襲の広報PR術」という本を新卒1年目の時に読んで、自分なりに下記だと認識していました。
・①各メディアのキーパーソンを割り出し、適切にアプローチする
・②PRしたい商品やサービスをメディア受けするかたちに変える
過去の新聞記事をキュレーションしてその分野の記者を特定し、ダイレクトにネタを届ける様子。ウェブから雑誌、雑誌から新聞、新聞からテレビ…と掲載歴を武器にしていく様子がまとめられていて、面白い本でした。
■■ジム・ハーフの仕事
話は「戦争広告代理店」に戻ります。
主人公の米国PRパーソン、ジム・ハーフは何が凄まじかったのか、少し抽象化します。
・①情報の送り手であるメディアの要所を確実に押さえる
・②情報の受け手である一般社会のリアクションを考え、打ち手を講じる
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■①情報の送り手であるメディアの要所を確実に押さえる
ボスニア・ヘルツェゴビナのシライジッチ外相が初めて米国で行った記者会見では、同国の知名度が足りず、記者が集まらなかった。
そのため、ジム・ハーフは下記のような手を打ちます。
・メディアや政府向けに「ボスニアファクス通信」という専門情報媒体を作る(A4で簡単にまとまった、取扱いやすいフォーマットに)
・記者会見ではなく、外相直々の「単独インタビュー」というかたちで報道の場を持つ
・関係国をルーツに持つ上院議員の秘書官や、発信力のある新進気鋭の記者を仲間にする(利害を一致させて口説いた)
・シライジッチ外相に、テレビ番組映えする振舞いを教え込み改造する(オファーが来やすい、番組に使ってもらいやすい状態に)
これをすることで、報道関係者がボスニア・ヘルツェゴビナの話を取りあげやすくなります。また、敵国セルビアの調査に割く時間も奪えたのです。痺れました。
■②情報の受け手である一般社会のリアクションを考え、打ち手を講じる
また、「パブリック」に対しても仕事ぶりが徹底しています。
ジム・ハーフは政府向けの書簡や、シライジッチ外相のスピーチ内容を世論を見据えて作り上げています。
・シライジッチ外相の怒りやすい性格を考慮し、重要な地上波の収録時は監視
・「民族浄化」や「多民族国家」など、アメリカや欧米社会に響くキャッチコピーを使って発信
・論敵になり得るマッケンジー将軍を、母国カナダ政府に訴えかけて冷静に排除
特に「Ethnic Cleaning(民族浄化)」というキャッチコピーを創ってしまったくだり、マーケティングの感性が凄すぎてうなりました。
■■まとめ
ボスニア・ヘルツェゴビナが「被害者」で、セルビアが「悪者」とし、国際社会からセルビアを干したジム・ハーフ。
メディアと社会の構造や動き方を理解し、「攻略」していると言えます。クライアントのために、クリエイティブでありつつ泥臭くもある、そんなPRパーソンの仕事でした。
今回はジム・ハーフの仕事振りに注目しました。が、「情報操作」という側面で捉えると非常に怖い内容です。
私たちに伝わってくる情報って、誰かの手も介さずクリーンに届けられるってはほとんどないんではないでしょうか。私たちの情報との向き合い方を考えさせる一冊でもあります。