ヒヤリハット予防【part1】免疫力低下xワクチンx院内感染
もし、読者のあなたが医療関係者の場合、下記のことを念頭に読んでいただけると幸いです。
あ~何回も挿管されてて、敗血症、敗血症ショック、DIC、抗がん剤治療、骨髄移植、色々経験して、大変だね~。
これなは、「何をしても予防したい」って思ってしまうよね~。
と、温かい気持ちでいてくれたら幸いです。
私は骨髄移植後に生ワクチンを受けてられていない。
以前いた国では、同種移植後の生ワクチンは禁忌、自家移植後は2年以降のみ可能ではある。しかし、生ワクチンは不活化ワクチンと違い、免疫力が弱いと稀に感染するリスクがあるため、抗体を調べて、陰性の場合のみ摂取すべきとされていた。
いずれにしろ、私は生ワクチンはまだ禁忌の時期に再々発し、入院となっていた。
なので、麻疹(はしか)・風疹・水痘(水疱瘡)・耳下腺炎(おたふく)の抗体はない状態だった。
そんな時、病棟で○○号室の誰々さんが帯状疱疹であると聞こえてきた。申し送りか、スタッフ同士の会話かは分からないが、廊下の声は時には重要だ。
帯状疱疹は、水痘(水疱瘡)を引き起こすVZウィルスが原因。水痘は空気感染する。
私は、ただ免疫を持たないだけにとどまらず、がっつり免疫が抑制される治療の真っただ中だ。
幾つかの合併症は既に起きていたし、心不全、喘息、免疫抑制などなど、様々な観点から、防げる感染は防ぐのが得策だった。
基本的には、病院では皆が「スタンダードプリコーション」(一般的な対策)を行っている。
・マスクの着用
・患者と接触した前後の手指消毒
・スタッフが自分を守るために、必要な時はエプロンを着用する
この三点は常に行われるように指導されている。
では、これ以外のこととなるとどうだろうか?
病院間で差が出てくるところもある。
目に見える汚れがあれば、手を洗うことが推奨されているが、そうでなければアルコール消毒のみが推奨されている。
病院によって差はあるものの、実はスタッフが患者間で毎回確実に手袋を代えているとは限らない。
ついうっかり、急いでいる時に、患者さんに触るつもりじゃなかったから…
とまぁ、手袋を代え忘れてしまうことが一切ないわけじゃない。
実際に、部屋には入ったが、どこにも触れなければ、感染対策不十分にはならない。その部屋を出た時に手袋を外せばいい。
私は、この時アルコールで帯状疱疹=水痘ウイルス=VZウィルス(ヘルペス属の一種)が排除できたかは、記憶が定かではなかった。全てのウイルスがアルコールで駆除されるわけではない(ノロは塩素)
抗がん剤に限らず、免疫が弱ってる患者さんが多い病棟では対応に気を遣う。科によっては、帯状疱疹の患者さんを隔離する病棟もある。隔離までいかずとも、自室を出ないように指示される場合もある。たまに、相部屋のまま外出禁止とかもあるが、それはその時の病棟の状況によっても最大限可能な対応に差が生じてしまうのはしょうがない。重症で、個室が必要な人が多い時に、個室に感染症の患者さんを常に移せる状況とは限らない。また、相部屋の患者さんは皆免疫力が十分に有れば、問題ない。
このように、帯状疱疹というのは、免疫が弱くなっている患者にとっては、接触を避けたい疾患の一つだ。
同じ病棟に帯状疱疹の患者さんがいるとの情報を聞き、私は早速自分の置かれている状況を説明した。
1)骨髄移植後であるということ。
2)故に、生ワクチン禁であるため免疫がないこと。(自分のせいではなく、やむ負えない事情のために免疫がないという説明は重要)
3)帯状疱疹の患者さんから、もしうつってしまったら、水痘を発症してしまうであろうこと。
4)大人が水痘を発症してしまうと、小児よりも大変である。
5)今、免疫が抑制されていて、感染症は危険なこと
6)過去に複数回敗血症(血液の細菌感染症)で何度も命が危ぶまれる状況に立たされた経験があること。
看護師さんに1-6と詳しく事情を説明して、感染対策が必要であることを周知させていただきたいとをお願いした。
それを聞いた看護師さんはバッチリ対応してくれた。
それ以前から、きちんと入室時には、新しい手袋を装着していたので、この病院ではその辺がきちんと行われているようではあった。
しかし、素手をアルコール消毒だけして入室する人もいた。
繰り返すようだが、病棟では、手指消毒をきちんとしていれば、特定の状況を除いて、手袋の装着は義務化されていない。そして、私はVZウィルスがアルコールで完全に排除できるかの記憶が確かではなかった。(米CDCのガイドラインはこちら→https://www.cdc.gov/quarantine/air/management/guidance-cruise-ships-varicella.html)
それでも、「特に注意が必要」と念には念を入れて捕捉しておくと、稀なうっかりも未然に防げる可能性はぐっと上がる。
予防は大変重要だが、予防が成功しても、その評価があまり日の目を見ないことが多い。
だって、「起きなかった」という目の前の事実は、予防を講じたから起きずに済んだのか、はたまた予防をしなくても起きずにすんでいたのかが見える形で評価できない。
さらには、万が一予防できなかった時に、ではどういう状態になっていたのかも、推測は出来ても、確実な目に見える事実としては現れない。
また、敏感に様々な状況判断をしなければいけない環境で、10人も、外来の受け持ち患者を入れたら、ひょっとすると100人を超える患者がいる先生もいる。全員の詳細を覚えていられる人は世界広しと言えども、数は少なし。
「忘れない」なんていう特殊な人間でない限り、常に情報を記憶し、考察し、その上微細な環境や本人の状態の変化に気が付けるはずもあるまい…まぁ、大きな合併症、よくある合併症、プロトコールに含まれる予防、それくらいが一般的なのかもしれない。
あとは、少しの変化が現れた後で、早期介入という形で、大事に至らないように対策をするのが一般的であろう。
しかし、本人・自分はこの世に一人しかいない。
自分に起きた病歴も覚えているものだし、自身の身体であれば、他人が外見や検査結果で異状が出るまで気が付けない事でも、気が付ける場合もある。
そして、予防した時と、予防できなかった時や、やむ負えずその事象が起きてしまった時のことを経験していれば、予防しなかった時の悲惨な状況が想像できることもある。
そして、十分な情報があれば、自分に可能な最大限の予防くらいは出来る。
現代の新型コロナ禍では、外に出る時にマスク・手洗い・換気これらを常にやるのは当然であろう。(新型コロナ禍での人類のスタンダードプリコーションみたいなもの)
もし、会う予定の人に風邪症状があると分かっていたら、会う日を移動したり、会う時間を短くしたり、普段以上に換気をしたり、こまめに席を外してうがいをする人もいるだろう。
このように、「もっと感染予防が必要だぞ!」と分かっている時の私たちがもっと予防を意識するのと同様に、医療現場でも、「ここは特に注意してね!予防できるよ!」というポイントをもう一度必要な時に伝えることで、大切な場面で普段以上に力を入れて予防してくれることもある。(あんまりごちゃごちゃ言いすぎると、クレーマー扱いにならないとも限らないことが注意点)
この念押しがなかった時、例えば1%だった罹患率が、もしかしたら0.01%まで下げられるだけでも、大きな儲けだ。なんと、100倍もの予防だ。
今回は、院内感染を予防できた。
会う人が感染症状がなくとも、濃厚接触者だと知っているのと、知らないのとでは、緊張感が変わるのと似ているかもしれない。
本人にしか分からない些細な変化を伝えることで、早期発見・早期治療に結び付くこともあるかもしれない。
これを良く思わない人もいるだろう。
しかし、本人程自分の身体を大切に思うのは、家族くらいだろう。この、何よりも大切に思い、苦しみを最小限に抑えたいという思いによって、些細な変化に気づき、可能な予防策を講じる最大限の努力ができるのは、本人や家族のアドバンテージだろう。
もちろん、こんな声掛けなんてしなくても、十二分に気を付けてくれる場合もある。とても丁寧な対応の場合もある。
それでも、本人にとって、もし万が一のことが起きた時、それが100%起きた事象になってしまうから、苦しみを味わえば味わうほど、我慢強くなる面と、慎重になり、より予防意識が高まる面とが共存する。
こいつうるさいな~という医療関係者がおられたら、あ~何回も挿管されてて、敗血症、敗血症ショック、DIC、抗がん剤治療、骨髄移植、色々経験して、大変だったね~。
これは、より「何をしても予防したい」って思ってしまうよね~。
と、温かい気持ちでいてくれたら幸いです。
患者さんは、気がついたことがあれば、ある程度積極的にお願いしていいと思います。
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