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役に立ちたい男ゴコロと家電量販店


「ほら、あったよ」
と、彼は微笑んで教えてくれる。

ネットニュースで、私が興味をもちそうなトピックがあった時。
皿洗いしている私に聞こえるように伝えたり
寝癖のついた髪の毛もそのままに駆け寄ってきたりする。

ガチャガチャコーナーで、
私を置き去りにしたと思えば
ひっそり両替とちいかわコーナーを下見して
手招きして言う。
「こけ、あったい。」
私がほんとだ、と言うと
「好きなのやったらいい」
と、真顔で小銭をくれたりする。

私は童心に返って、回す。

「あのキャラが出るかわかんないから」
と遠慮すると
彼は「大丈夫」と言い勝負に出る。
それが出るまで回し
「ん。」と言って、私にお目当てのものをくれたり、するのだ。

「あまり物が増えるのは嫌いで
ほとんど雑貨の類はない」
と言って、殺風景で機能的だった彼のアトリエは
今や、かわいいものや雑貨に侵食されつつある。
私が「これは推しじゃないから」
と言って押し付けた
ガチャガチャのキーホルダーを
彼はロッカーの鍵につけている。

教えてくれるのも、調べてくれるのも
おごってくれるのも
うんちくを垂れるのも
すべて男心だと今はわかる。

「君の役に立っている?」
は、「愛してるよ」のサインだ。
かわいいやつめ。


「何やってるの」
と聞く彼に「仕事で〇〇があったら便利かなと
思って調べてる」
といえば、すぐにSafariでそれを調べ上げ
「仕方ない。明日見に行こう」
と言って、本当に見にいき
Amazonとどちらが安いか調べ
底値で手に入れてくれる。


自分が検討していたものと、
違うものを彼がおすすめしてくれたとき
私は「これ最高だね」と絶賛したあと
多くの場合それを採用する。

でも、明らかに自分の用途や好みと
かけ離れていた場合は
売り場をうろうろして
「これ!このデザインかわいい!」
と彼に指差す。

彼はじろじろそれを見た後に
似たような商品を探し検討する。
そうなったら、もう彼に頼る。
「私のスマホでも使えるかな?」と聞くと
彼は店員さんに聞きに行ってくれるので
「じゃあそれがいいな。あなたのおすすめのほう」
と言って買ってもらう。


物を手に入れることが最終ゴールではない。
暮らしを豊かにすることが、私の目的だ。
自分の些細なこだわりよりも
「役立ちたい」という彼の気概に寄り添い、
感謝し受け取ることのほうが
遠回りに見えてゴールへの唯一の道だと考えている。

生まれる環境は選べないが、
せっかくこの世でしぶとく生き延びてきた以上は
自分の思う幸福な人生を取捨選択したい。
1人でも十分生きられるし、
あの世にはなにも持っていけないので
私は恐るものはない。なにひとつ。

この結婚が、寿命やすれ違いで想定外に早く終わることになった時。
私は号泣するだろう。でもしかたのないことだ。
それよりも、それを時間と共に忘れていく自分の方が
よほど恐るに値する。感謝も愛情も覚えていられないのだ。
そのあたたかみも、色さえも。


だからこそ、今目の前の彼の息遣いや優しさを
できる限りの感受性で抱きしめていたい。
モノのスペックよりも、私の心をふるわせるバイブスこそ
価値がある。


一緒に見た小川のせせらぎ。
「起きなくちゃね」と
まどろみながら聴いた鳥の囀り。

「そろそろ水を変えなくちゃ」
とあなたが心配してくれた、
栄養剤いりの花瓶の水。

飴を詰め替えて、かばんに忍ばせている
猫の缶。

ボールチェーンを付け替えて
ポーチにつけたキーホルダー。


打鍵感にこだわった
ワイヤレスキーボード。



あなたと選んだ物のひとつひとつ。
きちんと思い出すことができるように
noteに記していこう。



家電量販店が大好きなあなた。
ゲームについて、もっと色々話してね。
無駄遣いだ、なんて言わないから
一緒に見にいって予約しようよ。


色が変わっただけの限定デザインのコントローラーも。
焼き直しだけどヌルヌル動く不朽の名作も。

ベンチで朝ごはんを食べて。
ぬるくなったカフェオレを
気取らず楽しんだあとで。


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