3-5.言葉の力

 「吊り橋効果」という言葉がある。

 風が吹いたり、人が足を踏み出したりすると揺れてしまう吊り橋の上では、恐怖や好奇心で緊張状態になる。そのドキドキを恋愛感情と勘違いしてしまうことから、愛の告白が成功しやすいという心理現象のことだ。
 また、最近ではオレオレ詐欺のような電話による特殊詐欺が流行している。
 これも、相手を言葉巧みに緊張の中で混乱させて、お金をだまし取るというもの。
 占い師に入れ込んで、詐欺にあうのも、同じ。程度は違えども、これらは全て緊張状態の中で洗脳が行われるのである。

 DVや虐待は、まさにそうだ。

 暴力、暴言によって、恐怖と緊張、混乱状態になった家族へ、父が放つ言葉には凄い力があった。
 父は徹底的に人格批判と「お前が悪い」ということを強調した。最初は「私は絶対悪くない!」と反対の意見を強く持っていても、何度も殴られて、何度も怒鳴られて、何度も「お前が悪い」と言われると、どんどん意識の中にその言葉が刷り込まれていく。
 お前はダメな人間だ、何もできない、顔が悪い、部屋も片づけられない、弱虫、卑怯者、のろま、クズ、ゴミ、情けない奴だ、恥ずかしい人間だ、下手くそ、気持ち悪い、根性が腐っている、役立たず、育ちが悪い、いいところは何一つない、と思いつく限りの人格否定シャワーを浴びせてくる。
 もちろんこれらは父が母に向けて言ったもので私に向けて言ったものではない。
 しかし、DVに関係なく、普段から父は子どもたちを叱る際に人格否定をした。   
 いつか自分に向けて言われたことのある言葉が、母へのDVという恐怖の中でも聞こえてくる。私の耳がしっかりとその言葉をとらえて、脳が意味を理解する。その動作は自分の意志では止められない。
 結果として家族全員が「私はダメな人間だ。クズでゴミで、何もできない。部屋も片づけられないし、顔もよくないし、いいところなんてない。全て私が悪い」と思い込んでいった。
 母は子育てについて話す時、よく「寝る暇がなかった」と言うことが多い。睡眠不足というのは、最も洗脳されやすい状況である。
子育てのストレスと、睡眠不足と、その他に母が抱えていた様々な問題のストレスの中で、暴力を受けていた。
 そして、面前DVとして被害を受けていた私も、いつも不安とストレスで睡眠に問題を抱えていた。恐ろしいくらいに洗脳の条件がそろっていたのだ。

 加害者が意識的に洗脳の条件を揃えている可能性は低いのだが、私の父の場合は、祖父(父の父親)が、全く同じことをしていたそうだ。
 つまり、父は無意識のうちにその効果を知っていて、試行錯誤の上で、当時の再現をすることによって「妻が泣いて、もう抵抗してこない。あの時のように俺もできた」というDVの成功体験をしているのだ。
 私もその空気、そのやり方を、こうして解説できるほどに、理解している。だから私にもその才能がある。
 そんなことはしないと思うが、いつ私が、大好きな結婚後の家族に、DV、虐待、モラハラをするか、恐怖している。自分の血が怖い。

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