アルツハイマー型認知症「薬より『介護』が治療の根幹」新井平伊(アルツクリニック東京院長)
文・新井平伊(アルツクリニック東京院長)
新井氏
アルツハイマー型認知症治療の「4カ条」
認知症には、代表的なものだけでもアルツハイマー型、血管性、レビー小体型、前頭側頭型、混合型など多くの種類がありますが、そのうち約7割を占めるのがアルツハイマー型認知症です。
このアルツハイマー型認知症に使われる薬として、現在4つの薬に健康保険が適用されています。そのうちの3剤は「アセチルコリンエステラーゼ阻害薬」と呼ばれるタイプ。脳内のアセチルコリンという神経伝達物質が減少することで記憶障害や判断力の低下が起きると考えられることから、これを増やす作用を持たせた薬剤です。
アセチルコリンを増やす作用を持つ薬には、日本では1999年に初めて承認されたアリセプト(1日1回服用)、2011年に承認されたレミニール(1日2回服用)、リバスタッチパッチ、イクセロンパッチ(貼付剤、1日1回貼り換え)があります。この3剤は同種同効薬なので、併用されることはありません。
一方、アルツハイマー型認知症では過剰に放出されたグルタミン酸が神経細胞を障害し記憶の定着を妨げることから、このグルタミン酸が働く部位(NMDA受容体)をブロックするメマリー(1日1回服用)という薬も2011年に承認を得ています。これは中等度から高度のアルツハイマー型認知症に対して、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬に加える形で処方されます。
つまり、現状においてアルツハイマー型認知症の薬物治療の基本は、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬を単体で使用するか、比較的症状の進んだ人に対してアセチルコリンエステラーゼ阻害薬の中の一剤とメマリーを併用する――のいずれかになるのです。
以上のことを念頭に置いたうえで、アルツハイマー型認知症治療には、「4カ条」があります。それは「量は少なく」「数も少なく」「副作用がなければ使うべき」そして「薬よりも介護」の4つです。
「量は少なく」は、薬の用量のこと。高齢者は代謝能力が低いので、投与量は慎重に見極める必要があります。軽度と中等度の認知症にアリセプトを使う場合、最初は3ミリグラムから始めて、副作用がなければ通常量の5ミリグラムに上げる。高度障害は10ミリグラムに上げることもありますが、副作用が出たら5ミリグラムや3ミリグラムに下げる。つねに「少なめ」を意識することが重要なのです。
「数も少なく」は、基本となる服薬セット以外の薬のこと。前述のアセチルコリンエステラーゼ阻害薬の3剤は、同効薬ではあるものの微妙に副作用の違いがあります。胃部不快感などの消化器症状やイライラ、易怒性(怒りっぽくなる)といった副作用出現の割合も薬によって異なり、また薬との相性により個人差もあります。
ここで重要なのは、副作用を抑えるためとして、上乗せで消化器系薬剤や精神科系薬剤を安易に服用しないことです。特に、コントミンやウィンタミン、そしてハロペリドールといった抗精神病薬は鎮静効果(ボーッとしてしまう)が強く、歩行障害なども出やすいので、処方されても服用しない方がいいでしょう。
抗精神病薬を認知症高齢者で使用すると、死亡率を高めるリスクもあるという米国食品医薬品局(FDA)の警告もあります。精神科系薬剤を「加える」のではなく、症状を引き起こしている薬を「減らす」、または別のアセチルコリンエステラーゼ阻害薬に「替える」のいずれかにすべきなのです。
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