ヴァージニア・ウルフ|青色と緑色
Text|Kaede Itsuki
Blue and Green|Virginia Woolf
青色と緑色|ヴァージニア・ウルフ|
GREEN
The pointed fingers of glass hang downwards. The light slides down the glass, and drops a pool of green. All day long the ten fingers of the lustre drop green upon the marble. The feathers of parakeets – their harsh cries – sharp blades of palm trees – green, too; green needles glittering in the sun. But the hard glass drips on to the marble; the pools hover above the desert sand; the camels lurch through them; the pools settle on the marble; rushes edge them; weeds clog them; here and there a white blossom; the frog flops over; at night the stars are set there unbroken. Evening comes, and the shadow sweeps the green over the mantelpiece; the ruffled surface of ocean. No ships come; the aimless waves sway beneath the empty sky. It’s night; the needles drip blots of blue. The green’s out.
BLUE
The snub-nosed monster rises to the surface and spouts through his blunt nostrils two columns of water, which, fiery-white in the centre, spray off into a fringe of blue beads. Strokes of blue line the black tarpaulin of his hide. Slushing the water through mouth and nostrils he sinks, heavy with water, and the blue closes over him dowsing the polished pebbles of his eyes. Thrown upon the beach he lies, blunt, obtuse, shedding dry blue scales. Their metallic blue stains the rusty iron on the beach. Blue are the ribs of the wrecked rowing boat. A wave rolls beneath the blue bells. But the cathedral’s different, cold, incense laden, faint blue with the veils of madonnas.
底本|A Haunted House: The Complete Shorter Fiction of Virginia Woolf,Vintage Classics,2003
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上写真Du Vert au Violet 「架空のアブサン酒〜限定版シリーズ」より「緑色」
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上写真Du Vert au Violet 「架空のアブサン酒〜限定版シリーズ」より「青色」
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Du Vert au Violet《架空のアブサン酒〜青色と緑色》シリーズの詳細
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ヴァージニア・ウルフの実験的な短編“Blue and Green”(1921)を受けて、以下に記載する文章は、詩のような形式で短編の解説をした実験作品となります。
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ヴァージニア・ウルフの短編“Blue and Green”は1921年に短編集Monday or Tuesdayで発表されたのち長らく出版されることはありませんでした。まるで二つの詩が一対の絵画のように並んでいるようなこの短編は、伝統的な小説形式を「青色と緑色」の光のようにすり抜けていき、ちらちらと新たな文体の萌芽を投げかけます。
ウルフは実験的に短編に書いたものをアイデアの種として保存し、しかるべき時に取り出し長編として編みなおすということがあったようです。長編作品を読んでいても、登場人物の心のほとばしりが表現されている点や言葉の選び方から、まるで詩を読んでいるような感情を読者に想起させますが、この短編において起承転結といったプロットや規定された登場人物、伝統的な修辞方法を伴わない手法で書かれており、どの文体形式にも収まりきらない作品となっています。
現在では「意識の流れ」という大きな言葉で文学史の中で理解されることの多いウルフの作品ですが、規定された文体の要請を受けずに自身の意識に従った結果として文学史の巨大な位置を占めている点も魅力的に感じられます。
この短編で特徴的な表現のひとつは、セミコロンやコンマの多さでしょう。それによって一文が途切れることなく続いていきイメージが繋がっていきます。散文ではありますが詩のようにリズムや韻が意識され、五感を伴うことによってガラスの指、色彩の光、海の生き物、エキゾチックな植物へと変幻自在にイメージが展開されます。
「青色と緑色」というタイトルながら、始まりは「緑色」から、そして一日が終わるにつれて「青色」に急き立てられるように緑色は舞台から去ります。多くの芸術家が集まったブルームズベリーの一員だったこともあり、光への意識、緑色と青色をはっきりと分けない混ざり合う色という視点は印象派と後期印象派の影響も指摘されています。絵画や映像を言葉で表現したようなこの短編は、短いながらもダイナミックな言葉の流れを感じさせます。
発表されてからちょうど100年となる本年に、今も変わることのない光の移ろいと言葉による遊び心をぜひ原文と新訳でお楽しみください。
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ブランド名|Du Vert au Violet
作品名架空のアブサン酒〜限定版シリーズ・4種
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文|ヴァージニア・ウルフ
訳|維月 楓 *新訳
絵画|永井健一
ポプリ&装飾|霧とリボン
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封入物|
絵画(アクリル・アルシュ紙・イラストボード)
原詩と訳詩(ロール状・リボンリング留め)
ポプリ入りペーパーサシェ(天然原料のみ使用/0.5g入×3個)
制作年|2021年(新作)
*別ショット画像、各サイズや材料などの詳細はオンラインショップに掲載しています
*本物のお酒ではありません。
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