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LIBRARIAN|川野芽生の小部屋

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モーヴ・アブサン・ブック・クラブの司書、川野芽生の小部屋。小説家・歌人・文学研究者。
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#古典技法KANESEI

ニコラス・カルペパーの窓|古典技法 KANESEI 《1》|星を仕舞う

 星を、収めるための函ですよ。  昔からその地方では時々、落ちている星を拾うことがあるそうです。  いつ落ちてきたものかはわかりません。  昨夜落ちたばかりの流星なのか、それとも何万年も土の中に埋まっていたものか……。  落ちてくるところを見たものはないそうです。  ですからそこでは、函造りがさかんなのだそうです。  なぜって、拾った星を仕舞うためですよ。  星をそのへんの空き箱に仕舞うわけにはいかないでしょう?  たとえば、こういった。  夜空のような紺青色の布で内

ニコラス・カルペパーの窓|古典技法 KANESEI 《2》|函のかなたの世界を見る

 異端の魔術師が姿を消したとき、彼のアトリエには大量の函だけが残されていた。  大きさも材質も意匠もさまざまな、函——。  一体どんなものが入っているかわかったものではないと、人々は怖れて手を触れることもできなかった。  湖上の魔術研究所から、賢者たちがアトリエを調べにやって来た。  彼等はおそるおそる函を開けてみたが、中には何も入っていない。  どの函もどの函も同じである。  しかし手を尽くして調べてみた結果、函はそれぞれ、特定の月と星の相の下でのみ真に「開く」——とい