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ニコラス・カルペパーの窓|古典技法 KANESEI 《2》|函のかなたの世界を見る

 異端の魔術師が姿を消したとき、彼のアトリエには大量の函だけが残されていた。

 大きさも材質も意匠もさまざまな、函——。
 一体どんなものが入っているかわかったものではないと、人々は怖れて手を触れることもできなかった。

 湖上の魔術研究所から、賢者たちがアトリエを調べにやって来た。
 彼等はおそるおそる函を開けてみたが、中には何も入っていない。
 どの函もどの函も同じである。
 しかし手を尽くして調べてみた結果、函はそれぞれ、特定の月と星の相の下でのみ真に「開く」——ということが明らかになった。

 月と星とを占って、幾夜待ち暮らしただろうか、ひとつ目の函が開く夜となった。
 側面に文字の刻まれた、小さな函だった。
 函を開けてみて、賢者たちは驚いた。
 消炭色のやわらかい布が張られているほか、何も入っていなかったはずの函の内側は、いまや底無しとなり——見たこともない世界がその向うに広がっていたのである。

 それがどのような世界であったのか、伝える者はいない。

 彼等はまた幾晩も幾日も待ち、ひとつずつ函を開けていった。

 どの函の中にも、それぞれまるで異なる世界への窓が開けていた。

 しかしそれは危険な作業であった。
 向うを見ようと身を乗り出すあまり、函の中へと転落して行方知れずとなる者が跡を絶たなかったからである。

 おそらく魔術師も、そのようにして姿を消したのであろう。

 月と星とを占ってみれば、すべての函を開け終えるまでには何百年もの年月がかかる、研究所の方でも、あまり多くの賢者をいつまでもこの調査に投入してはいられない、そこで一人を残して引き上げることとなった。

 今でもこの一人が、函を開け続けているということである。

古典技法 KANESEI|古典技法額縁制作・修復・小箱制作室 →HP
イタリア・フィレンツェで額縁制作と修復を学ぶ。中世ヨーロッパより伝わる古典技法をベースに、フル・オーダーメイドの額縁、純金箔やオーナメントなどで装飾した小箱を制作。 
横浜の古典技法アトリエ「Atelier LAPIS」にて額縁制作と卵黄テンペラ画模写の指導も行っている。 

川野芽生|小説家・歌人・文学研究者 →Linktree 
1991年神奈川県生まれ。2018年に連作「Lilith」で第29回歌壇賞、21年に歌集『Lilith』で第65回現代歌人協会賞受賞。24年に第170回芥川賞候補作『Blue』を刊行。他の著書に、短篇小説集『無垢なる花たちのためのユートピア』、掌篇小説集『月面文字翻刻一例』、長篇小説『奇病庭園』、エッセイ集『かわいいピンクの竜になる』、評論集『幻象録』、歌集『人形歌集 羽あるいは骨』『人形歌集II 骨ならびにボネ』がある。2024年7月、第二歌集『星の嵌め殺し』刊行。



作品販売期間
【10月20日(日)21時~22日(火)21時】
BASE【15%OFFクーポン】利用可能
(*諸条件あり)

作家名|古典技法 KANESEI 
作品名|latino-1
 
桐木地小箱にボローニャ石膏・線刻・アクリルガッシュで彩色・アンティーク仕上げ
作品サイズ(外寸)|縦4.5cm×横4.5cm×高さ2.5cm 
作品サイズ(内寸)|縦3cm×横3cm×高さ1.3cm 
制作年|2024年(新作) 

作家名|古典技法 KANESEI 
作品名|ornamento-1
 
桐木地小箱にボローニャ石膏・アクリルガッシュで彩色・アンティーク仕上げ・古い金具より型取りしたオーナメントで装飾
 作品サイズ(外寸)|縦4.5cm×横4.5cm×高さ3cm 
作品サイズ(内寸)|縦3cm×横3cm×高さ1.3cm 
制作年|2024年(新作) 

作家名|古典技法 KANESEI 
作品名|ornamento-2
 
桐木地小箱にボローニャ石膏・アクリルガッシュで彩色・アンティーク仕上げ・ 古い金具より型取りしたオーナメントで装飾
作品サイズ(外寸)|縦3.5cm×横3.5cm×高さ3cm
作品サイズ(内寸)|縦2.1cm×横2.1cm×高さ1.2cm 
制作年|2024年(新作)

作家名|古典技法 KANESEI 
作品名|ornamento-3
 
桐木地小箱にボローニャ石膏・アクリルガッシュで彩色・アンティーク仕上げ・ 古い金具より型取りしたオーナメントで装飾
 作品サイズ(外寸)|縦3.5cm×横3.5cm×高さ3cm 
作品サイズ(内寸)|縦2.1cm×横2.1cm×高さ1.2cm 
制作年|2024年(新作) 

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