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LIBRARIAN|川野芽生の小部屋

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モーヴ・アブサン・ブック・クラブの司書、川野芽生の小部屋。小説家・歌人・文学研究者。
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#ニコラス・カルペパー

ニコラス・カルペパーの窓|marship《1》|石の中に夢見る

 かつて、繰り返し見ていた夢がありました。  旅をしています。  雪煙の立ちこめる、林の中の道を、馬で進んでおりました。  銀鼠の空を背に、重たく垂れる冬木の枝。  あるいは、白く霞む遠くの常緑樹。  そんな風景がどこまでも続きます。  遠い異国のような、けれど不思議に懐かしいような、気がいたしました。   覚えているのはそれだけ。  どこから来て、どこへ向かうところなのか――夢から醒めたあとでは、どうしても思い出せません。  一人であったのか、それとも誰かが共にいたのか

ニコラス・カルペパーの窓|古典技法 KANESEI 《1》|星を仕舞う

 星を、収めるための函ですよ。  昔からその地方では時々、落ちている星を拾うことがあるそうです。  いつ落ちてきたものかはわかりません。  昨夜落ちたばかりの流星なのか、それとも何万年も土の中に埋まっていたものか……。  落ちてくるところを見たものはないそうです。  ですからそこでは、函造りがさかんなのだそうです。  なぜって、拾った星を仕舞うためですよ。  星をそのへんの空き箱に仕舞うわけにはいかないでしょう?  たとえば、こういった。  夜空のような紺青色の布で内

ニコラス・カルペパーの窓|古典技法 KANESEI 《2》|函のかなたの世界を見る

 異端の魔術師が姿を消したとき、彼のアトリエには大量の函だけが残されていた。  大きさも材質も意匠もさまざまな、函——。  一体どんなものが入っているかわかったものではないと、人々は怖れて手を触れることもできなかった。  湖上の魔術研究所から、賢者たちがアトリエを調べにやって来た。  彼等はおそるおそる函を開けてみたが、中には何も入っていない。  どの函もどの函も同じである。  しかし手を尽くして調べてみた結果、函はそれぞれ、特定の月と星の相の下でのみ真に「開く」——とい

ニコラス・カルペパーの窓|川野芽生×ruff×Du Vert au Violet|星座写字室〜風のエレメント

 代々の護り人が博物図譜をひそかに受け継ぎ、気の遠くなる時の流れの中でその時代時代の尖端が織り込まれ、いまこうして届けられた——イラストレーター・ruff様の作品を初めてみた時の打ち震える衝撃は、今でも鮮明なままです。  その作品にはアンティークの風合いが質感豊かに盛り込まれていながら、透明感あふれる現代的なセンス、さらには未来のノスタルジーをも感じさせる不思議な時の揺らぎが留められていました。  これまで、数々の霧とリボン企画展へのご参加に加え、2020年には念願の個展《

ニコラス・カルペパーの窓|川野芽生|メイキング・エッセイ|星座写字室〜星の言葉を綴る

 文学作品を題材に作られるDu Vert au Violetさんのポプリを知ってから、いつか小説か短歌でコラボさせてほしい、と思っていました。  その願いが叶って、このたび『星座写字室』シリーズにてDu Vert au Violetさんのポプリ、ruffさんのシガレットカードとご一緒させていただけることになりました。  私の担当は、各星座にまつわる掌篇小説。  その際、星座だけでなく、それに対応する植物各二種(シガレットカード・ポプリとも共通)も登場させてほしいとのことで