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LIBRARIAN|嶋田青磁の小部屋

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モーヴ・アブサン・ブック・クラブの司書、嶋田青磁の小部屋。詩人・フランス文学修士課程在籍。専門は19世紀フランス詩。学部在学中にピエール・ルイス『ビリティスの歌』に出会い、詩の魅…
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#イラスト

ruff個展《菫色少年秘密倶楽部》|巻頭詩|嶋田青磁|菫色の領域

* * * 嶋田青磁|詩人

ruff個展《菫色少年秘密倶楽部》|薬草室の秘密

 箱庭、それは大人の手がけっしてとどくことのない秘密の場所。そこに棲まうのは、人形のように美しい少年たち。ruff氏の描く彼らは、みな菫色の憂いをヴェールのごとく纏っているように見える。彼らを結びつけているのは〈秘密〉。菫色少年秘密倶楽部 (Mauve Boys Secret Club)のメンバーは、学園という城の中で、彼らだけの聖域をつくりあげているのだ。  ところで、ご存知だろうか。わたしたちが花を見つめるとき、花もまたこちらを見つめているということを。花々は、箱庭に踏

鳩山郁子オマージュ展 《羽ばたき Ein Märchen》 |鳩山郁子《2》|小さな夢の痕跡

Text|嶋田青磁  暗闇に浮かび上がるのは、小さな夢の痕跡。  少年はたしかにそこにゐて、夢を見ていたのです。  今秋の『羽ばたき Ein märchen』オマージュ展に際し、鳩山郁子氏による4点のイラスト作品が発表されます。菫色の小部屋には、まるでジジ扮する怪盗ジゴマが残していったかのような、アイテム(手がかり)の数々。不在の少年たち、その輪郭を、これらの”証拠品”を頼りに解き明かしたくなりませんか。  夢を駆け抜ける少年のポケットには、いつもさまざまな宝物が入

鳩山郁子オマージュ展 《羽ばたき Ein Märchen》 |鳩山郁子《4》|純白の少女が見る夢は

Text|嶋田青磁  真っ白なレースとフリルをなびかせて、軽やかに街路をゆくのは  ひとりの少年によってつくられた架空の少女——  『羽ばたき Ein Märchen』において、怪盗の時間たる夜を生きることを余儀なくされたジジ。そんな彼が、明るい日の下で堂々と街をゆくために思いついたのが、少女装でした。怪盗ジゴマはなんにだってなれます。たとえかつての友だちでも、今しがたすれ違った涼やかな目元の少女がジジだとは気づきません。  今回、鳩山郁子先生が新たにイラスト化され

三人展《シェイクスピアの妹たちの部屋》|ティルーム|花モト・トモコ

 お茶をする時間、というのは特別なものだ。それがお気に入りのティセットや調度品に囲まれたわたしだけのティルームであればなおさら。まるでカフェ・ラテにのったミルクのように、日常からふわりと浮いたひとときである。  花モト・トモコ氏による優雅で可憐な作品は、午後のやさしい陽光に照らされたティータイムを思わせる。《Favorite Sweets》は、まるでパティスリーの華やかなショーケースを覗いているかのよう。色とりどりのスイーツをひとりじめするのももちろん素敵だけれど、なんだか

鳩山郁子|『羽ばたき Ein Marchen』—生への飛翔、あるいは落下—

Text: 嶋田青磁  羽ばたく——。  それは、人間にとって不可能な行為である。なぜなら、人間には“翼”が無いのだから。思い浮かべてみると、たしかに鳥や虫、羽ばたくものたちはみな、飛翔するための羽(翅)としなやかな筋肉が生れながらにそなわっている。  けれどもし、人間に羽ばたくことが可能であるとしたら?  鳩山郁子先生の『羽ばたき』はその可能性を、堀辰雄による原作から掬い取り、きらめく結晶を抽出するようにして、“漫画”という魔法でわたしたちに提示しているように思われる。