鳩山郁子オマージュ展 《羽ばたき Ein Märchen》 |鳩山郁子《4》|純白の少女が見る夢は
Text|嶋田青磁
真っ白なレースとフリルをなびかせて、軽やかに街路をゆくのは
ひとりの少年によってつくられた架空の少女——
『羽ばたき Ein Märchen』において、怪盗の時間たる夜を生きることを余儀なくされたジジ。そんな彼が、明るい日の下で堂々と街をゆくために思いついたのが、少女装でした。怪盗ジゴマはなんにだってなれます。たとえかつての友だちでも、今しがたすれ違った涼やかな目元の少女がジジだとは気づきません。
今回、鳩山郁子先生が新たにイラスト化されたのは、ブロンドヘアにホワイト・ティードレスをあわせたジジの姿。純白のフリルにレース、まるで少女たちの夢をそのままかたちにしたかのようなワンピースは、白い鳩の翼を彷彿とさせます。本編でのエレガントな黒髪のショートヘアスタイルとは対照をなす可憐な雰囲気です。
ところでジジは、どうして少女の変装をすることを選んだのでしょうか。
わたしにはなんだか、フリルの裏に隠された「大人への反逆心」のようなものが感じられるのです。少女という存在は、大人がけっして立ち入ることのできない聖域でもあると思っています。その聖域は、枯れない花が咲き、夢の泉が湧きつづける特別な場所。ショーウィンドウを粉々に打ち破り、大人の世界から奪った少女の装いは、ジジにとってまさしく宣戦布告ではないでしょうか。
こうしてひとりの少年が生み出した架空の少女のファッションプレート——「ジゴマ鳩」の犯行の合間に、どこかのブティックにそっと残されているかもしれませんね。びっくりする大人たちの様子を、きっとジジはU塔の上から笑みを浮かべて眺めていることでしょう。
本展ではイラストに描かれたデザインを服飾作家であるmIRA.さまが再現し、一点もののドレスとして発表いたします。気鋭のアーティストお二人によるまたとないスペシャルなコラボレーション企画、皆さまお見逃しなきよう・・・
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鳩山郁子|漫画家・イラストレーター →Official Blog 『鳩小屋通信』
近刊に堀辰雄の初期ファンタジー小説をコミカライズした『羽ばたき Ein Märchen』(KADOKAWA / 第24回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品)そのほかの著書に『寝台鳩舎』(太田出版 / 第21回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品)『エルネストの鳩舎』 『カストラチュラ』(青林工藝舎)『スパングル』 『ミカセ』(復刊ドットコム)などがある。
twitter:@IkukoHatoyama
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嶋田青磁|詩人・フランス文学修士課程在籍 →note
学部在学中にピエール・ルイス『ビリティスの歌』に出会い、詩の魅力に憑かれる。19世紀末の頽廃・優美さを求め、研究の傍ら詩作活動中。オンライン上のストリート「モーヴ街」では、図書館「モーヴ・アブサン・ブック・クラブ」にて司書をつとめている。
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作家名|鳩山郁子
作品名|ホワイト・ティードレスを着たジジ
不透明水彩・墨汁・ケント紙・デッドストックわら半紙
作品サイズ|25.4cm×20.3cm
額込みサイズ|27.3cm×22.3cm
制作年|2021年(新作)
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