ruff個展《菫色少年秘密倶楽部》|薬草室の秘密
箱庭、それは大人の手がけっしてとどくことのない秘密の場所。そこに棲まうのは、人形のように美しい少年たち。ruff氏の描く彼らは、みな菫色の憂いをヴェールのごとく纏っているように見える。彼らを結びつけているのは〈秘密〉。菫色少年秘密倶楽部 (Mauve Boys Secret Club)のメンバーは、学園という城の中で、彼らだけの聖域をつくりあげているのだ。
ところで、ご存知だろうか。わたしたちが花を見つめるとき、花もまたこちらを見つめているということを。花々は、箱庭に踏み入る者をじっと見定める。そして囁きあう、その人物が秘密を共有するに値する者か、あるいはたんなる侵入者か——。後者であれば、花影の棘が、葉に滴る露の毒が、すべてを拒絶するだろう。
アーティチョークのむこうで光る少年の眼差しも、同じように〈警告〉している。これ以上深く花園に立ち入れば、もう後には戻れない。けれど、それを知っていてもなお、近づきたくなる甘美な魅力を〈秘密〉はもっているのだ。
〈秘密〉はときに危険なもの。少年たちがそのほっそりした指先で調合しているのは、もしかすると香りの秘密かもしれない。香りは、古来から記憶ともっとも密接に結びついていると言われている。おそらく、どんな魔法よりも香りの魔力は強い。乾いた花の甘いパルファンは、わたしたちの記憶と感情を鮮明に呼び起こすだけでなく、〈ここではない場所〉を連想させる。その危険さに、きっと菫色の少年たちも気づいている……
古い書物もまた、魔法に近い力をもっているとわたしは思う。なぜなら、香りのように、物語はわたしたちを遠いところへと一瞬で連れ去ってしまうから。小説や詩だけでなく研究書だって、書いた者の膨大な時間がそこに詰め込まれている。わたしたちは本を読むことで、時間という深淵を少しだけ覗くことができるのだ。こうして、ひとつの書物を読んだ者どうしは深い〈秘密〉によって繋がれるのである。
少年たちは、菫色の薄闇のなか、蝋燭の灯りをたよりに奥へと進む。大人の寝静まった夜に暗躍する彼らは、さながら黒猫である。静まりかえった薬草室は、彼らにとって未知の植物や鉱物に溢れ、〈秘密〉の手がかりがそこかしこに潜んでいるように見える。あるいは、〈秘密〉をさらに濃密なものにする材料。こうした活動はけっして見られてはいけないし、だれかに知られてもいけない。
人々はなぜ、温室に咲く花がただ美しく淑やかであるという幻想を抱くのだろう?
花園が美しければ美しいほど、その秘密もまた危険である。
ruff氏の描く少年たちは、銀色に煌めく眼差しで、こうした事実をわたしたちに伝えてくるように思われる。
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作家名|ruff
作品名|警告
インクジェットプリント・箔押し
作品サイズ|直径20cm
額込みサイズ|32.2cm×32.2cm
制作年|2022年(新作)
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作家名|ruff
作品名|秘密の調合
インクジェットプリント・箔押し
作品サイズ|20cm×20cm
額込みサイズ|32.2cm×32.2cm
制作年|2022年(新作)
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作家名|ruff
作品名|魔法の書
インクジェットプリント・箔押し
作品サイズ|18cm×18cm
額込みサイズ|30.2cm×30.2cm
制作年|2022年(新作)
税込価格|27500
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作家名|ruff
作品名|夜の薬草室
インクジェットプリント・箔押し
作品サイズ|23cm×20cm
額込みサイズ|27.6cm×30.6cm
制作年|2022年(新作)
税込価格|33000
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