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LIBRARIAN|嶋田青磁の小部屋

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モーヴ・アブサン・ブック・クラブの司書、嶋田青磁の小部屋。詩人・フランス文学修士課程在籍。専門は19世紀フランス詩。学部在学中にピエール・ルイス『ビリティスの歌』に出会い、詩の魅…
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2021年11月の記事一覧

鳩山郁子オマージュ展 《羽ばたき Ein Märchen》 |嶋田青磁|ぼくらが羽ばたける場所はどこか?

Text嶋田青磁  ぼくらが羽ばたける場所、そこは天使たちの棲まう場所。  生も死も、男も女も、なにもかもが曖昧に揺らめく菫色の領域——  このたび、鳩山郁子先生のコミック『羽ばたき Ein Märchen』に捧げるエッセイ・詩の小品集を制作させていただくという大変に光栄な機会をいただきました。鳩山郁子先生の作品、とりわけ『羽ばたき』には、について読者に深く考えさせるようなきっかけが散りばめられています。  皆さんは、できることならずっと夢の世界に住みたい、と思った

鳩山郁子オマージュ展 《羽ばたき Ein Märchen》 |永井健一|夢と現実のあわいにて

Text|嶋田青磁  どこからか羽音が聞こえる。遠くなったかと思えばまた近くなる。  これは夢——なのだろうか?  堀辰雄の小説を原作とするコミック、鳩山郁子『羽ばたき Ein märchen』に捧ぐ本展。永井健一氏による作品がやわらかな秋風とともに菫色の塔へと舞い降りました。その絵画世界は、わたしたちに夢の残り香を伝えながら、そっと語りかけてきます。  ジジの閉じた瞳の奥に広がるのは、どんな風景なのでしょうか。遠い少年少女時代に置いてきたはずの景色が、雲間からのぞ

鳩山郁子オマージュ展 《羽ばたき Ein Märchen》 |鳩山郁子《2》|小さな夢の痕跡

Text|嶋田青磁  暗闇に浮かび上がるのは、小さな夢の痕跡。  少年はたしかにそこにゐて、夢を見ていたのです。  今秋の『羽ばたき Ein märchen』オマージュ展に際し、鳩山郁子氏による4点のイラスト作品が発表されます。菫色の小部屋には、まるでジジ扮する怪盗ジゴマが残していったかのような、アイテム(手がかり)の数々。不在の少年たち、その輪郭を、これらの”証拠品”を頼りに解き明かしたくなりませんか。  夢を駆け抜ける少年のポケットには、いつもさまざまな宝物が入

鳩山郁子オマージュ展 《羽ばたき Ein Märchen》 |鳩山郁子《4》|純白の少女が見る夢は

Text|嶋田青磁  真っ白なレースとフリルをなびかせて、軽やかに街路をゆくのは  ひとりの少年によってつくられた架空の少女——  『羽ばたき Ein Märchen』において、怪盗の時間たる夜を生きることを余儀なくされたジジ。そんな彼が、明るい日の下で堂々と街をゆくために思いついたのが、少女装でした。怪盗ジゴマはなんにだってなれます。たとえかつての友だちでも、今しがたすれ違った涼やかな目元の少女がジジだとは気づきません。  今回、鳩山郁子先生が新たにイラスト化され