
イヨマンテの夜となりきり熊ダンサー
最近利用者1人、スタッフ1人のマンツーマンのデイサービスを運営している。かゆいところに手が届く、きめ細やかなサービスを心がけている優良介護施設を自認しているが、ぶっちゃけただの在宅介護だ。
80代の母は家事がおぼつかないので、生活支援のつもりで近所に住む私が手伝いに行っているのだが、本人は一緒に遊びたいから来てもらっているつもりらしい。料理や掃除をしていると、つまらないと文句を言う。
そう言われても、家事とレクリエーションを一人でサポートするとなると割と大変なのだ。本当に在宅介護はワンオペ育児と同じよね。
好奇心を持つと認知症予防になると聞いて、必死に楽しめそうなことを探しているのだが、定番の脳トレもぬり絵も続かない。不眠症からうつ状態になっているので、そもそもやる気が出ない状態なのだ。
やる気がないわりには、「いかにやる気が無くなって辛いか」、という話しを一日中している。他には「眠れない」「もの忘れをするようになった」など、眠れないので夜中まで話し続けているせいか、声がかすれるようになってしまった。
これだけ話せば、アナウンサーだって声枯れするわと思うが、母は病気で声が出なくなったと思っているので、チャンスとばかりにプレゼンしてみる。
「声帯を鍛えるために歌がいいらしいよ」
「歌は脳トレに良いんだって」
我が家は全員歌うことに対して謙虚なので、カラオケ文化はないが、こうなったら手拍子でもヨイショでもなんでもするわ!
褒めて褒めまくってやる気を出させて見せる!
YouTubeで高齢者の好きそうな童謡や昭和歌謡を検索して、中でもデイサービスで人気だという口コミの良い動画を流してみた。
童謡は字幕を見ながら何とか歌った。しかし昭和30年代・40年代の歌謡は知らない曲ばかり。聞いたことのある曲もサビだけで、一緒に歌える曲がない。
せめてもと、一生懸命手拍子したり掛け声をかけたりしたのに、一緒に歌わないことに母は不機嫌になる。
仕方が無い。私の真の実力を見せる時が来た。歌えないなら踊ればいいじゃない~。何を隠そう、小さい頃はバレエ少女だったのだ。運動会では創作ダンスの振り付けもやったんだからね。
昭和歌謡メドレーも終盤になってきた。「高校三年生」の次は「イヨマンテの夜」。声が出ないはずの母は声を張り上げて気持ちよく歌っているが、バックダンサーの私は息も絶え絶えだ。
「イヨマンテ」はアイヌの重要な儀式で、飼い熊の霊(カムイ)を神々の元へ送るものらしい。厳かに、感謝と敬意を込めて踊らなくてはならない。
儀式らしく土下座をしてみたり、プルプルした二の腕を天の神に向かって差し伸べたりしてみた(イメージです)
気づくと母が歌いもせずに、じっとこちらを見ている。
「熊が命乞いをしているところを、そんなに真剣に表現されたら可哀想で歌えないわ」
いえ、これは熊ではなく人間が行う儀式なんですけど!歌詞だってそうなってるでしょ!主客転倒も甚だしい。こんなところで創作ダンスの才能が開花してしまうとは・・・。
母の目には光るものがあった。感情を動かすことが、認知症予防に効果的だという。
さっそくイヨマンテのおかげが出たようだ。熊(カムイ)ありがとうございます!
今度くまのプーさんのタオルをプレゼントするからね、お母さん!私とおそろいなの・・・。