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自分のことを誰かに話すことの難しさ:冬木 更紗(臨床心理士)

メザニンのカウンセラーに広報室スタッフがインタビューをする本企画。
第2回は精神科・心療内科でもお仕事をされている臨床心理士の冬木 更紗(ふゆき さらさ)さんです。
大学院時代の研究内容や、心を開くことへの思いをお伺いしました。

— 心理士の仕事を目指そうと思ったきっかけを教えてください。

中学生の頃には心理学にぼんやりと興味があって、心理学はどんなことに使えるのだろう、どんな職業があるんだろうと考えて、高校生の頃にはカウンセラーになりたいと思うようになっていました。

はじめは、自分の気持ちや周りの人の気持ちが知りたかったんです。
日々自分が感じたり考えたりしたことが、家族や友達は同じように思っていなかった、そういうちょっとした違いを不思議に思っていました。
そういう好奇心と、時々苦しさもあって、心理学の本を読んでいました。

— どんな本を読んでいたんですか?

『シーラという子』という本があります。
作者のトリイ・ヘイデンは児童心理学者で、さらに自身も特別支援学級の先生をやっていて、その経験から色んな本を出しています。その本が一番最初だったかなと思います。
それから中学生の時には、家族関係の本や一般書でも心理学関係の本をよく読んでいました。

— 大学ではどのようなことを研究されていたんですか。

「自己開示」に興味があって、学部生の研究の時から、自分の内面を他の人にさらけ出すことの難しさについて触れていました。

そもそも私自身、自分のことを相手に話すことに難しさを感じていました。
これまでの心理学の研究で、自己を他者に開示することにはポジティブな効果があることが分かっていたのですが、ではそれが難しい人はどうすれば良いのだろう、と。

他にも、誰かに気持ちを受け止めてもらえたという実感が自己肯定感を上げる、なんて研究もあるんですけれど、自己開示が難しい人はその効果を得られません。
そうした人のための代替的なアプローチを探していました。

辿り着いたのが「筆記」でした。
自分で自分のことを書いて、誰にも見せないで表現する。これなら他者を意識せずに、自分を表出することができます。

自分に向けて手紙を書いて返信する、これを「ロールレタリング」と言うのですが、自己開示と同じ効果が得られるんじゃないかと考えて、自分に向けて手紙を書いて返信する実験を大学院でやっていました。

— 「ロールレタリング」という名前がすでにあるということは、似たような実践が実際にどこかで行われているのでしょうか。

司法分野で行われていますが、その目的が違います。

収監されているその人が、被害を与えてしまった人宛に手紙を書いて、さらにそれに自分で返信を書いてみる。そうすることで、今度は被害者の視点に立って返信を書くことになり、他者の視点を自分の内側に得ることができるようになります。

自分の気持ちを整理して紙に書くことで、状況や自分自身が抱えている物事を俯瞰して見れる効果もありますし、返信を書く際には他者の視点に立つので、他者に対する共感性みたいなところに寄り添える、そんな効果が期待されています。

— 先日、「6月のおすすめ読書」というnote記事で「物語」をテーマに本を紹介しました。冬木さんが研究したロールレタリングと、ナラティブや自己物語とはどのような関係があるのでしょうか。

ロールレタリングをする際にも、本人が書き出すその語りに注目して、自身のこれまでの人生にはどんなストーリーがあって今ここに立っているんだと感じているのか考えるので、これはとてもナラティブな態度だと思います。

ただ、ロールレタリングは自分一人でやるものなので、良くも悪くもカウンセラーのような支えになったり助言をする他者がいません。
自分の物語を見つけられるかどうかは、その人自身の力次第です。

— 他者の不在は、実際にどのような効果をもたらすのでしょうか。

自己開示への抵抗感が高い人というのは、自分が他の人に受け入れてもらえなかったらどうしようとか、ポジティブなフィードバックがもらえなかったらどうしようといった、自己を開示することに恐怖を持っています。
その背後には、今までに誰かに拒否や拒絶をされた経験があったり、自分について打ち明けたのにひどいことを言われたりした経験があったりします。

誰かに話すことは凄くハードルが高い行為です。
そうした人にとって、誰にも見られないで自身を見つめることができるロールレタリングは、意味があると思います。

— 1人でできるという点では、ある種のアンチ・カウンセリングの研究である気もします(笑)

そうですね。確かに。

カウンセリングに対してハードルが高く感じていて、でも友人や家族にも話せない、話せるような環境じゃない、そういう人はリアルにいます。

私自身、カウンセラーとか臨床心理士について何も知らなかった中学生の頃だったら、カウンセリングを受けようとは思わなかったような気がします。今も、精神科・心療内科と聞くとハードルが高いなと思われているんじゃないかな。もっと気軽に来て良い場所なんですけれどね。



冬木 更紗(ふゆき さらさ)
心理学学位および臨床心理学専攻修士取得。療育センターにて就学前の子どもを対象に応用行動分析に基づくグループ指導経験あり。臨床心理士および公認心理師取得後、精神科・心療内科にてカウンセリングを行なっている。また、WAIS-IV知能検査やエゴグラムなどの心理検査も実施経験が豊富。

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