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【おすすめ読書】デザインとメンタルヘルス

オンラインカウンセリングサービス「mezzanine(メザニン)」の広報室が紹介するおすすめ読書。

今回のテーマは「デザイン」。

『生きのびるためのデザイン』において、著者のヴィクター・パパネックは「人は誰でもデザイナーである。ほとんどどんなときでも、われわれのすることはすべてデザインだ。デザインは人間の活動の基礎だからである」と述べている。

というわけで、専門家によるワザに着目するのではなく、私たちの生活とデザインの関係を読み解きながら、メンタルヘルスについて考えます。


『デザインされたギャンブル依存症』(青土社)ナターシャ・ダウ・シュール

本書で取り上げられるギャンブルは、「007カジノロワイヤル」に出てきたような複数人で囲んでトランプをするようなものではなく、スロットマシンやビデオポーカーといった機械に向かって黙々と一人でやるタイプのもの(本書ではマシン・ギャンブリングと称される)。

1980年代までカジノの主役はカードゲームだった。それが、2003年にはマシン・ギャンブリングが業界収益の85%を占めていると見積もられるほどに。

マシンには特別な何かがあるのだろうか? というと、ちょっと違う。

また、本書のタイトルにある「ギャンブル依存症」だが、依存症は決して当事者の属性や性格、生まれつきの特質などが原因であるわけではない。

哲学者ブルーノ・ラトゥールによれば、「行動」とは、主体や対象の内側にあらかじめ存在する本質ではなく、両者が「共同制作」するものだ。

つまり、ギャンブル依存という「現象」は、ギャンブラーとマシンの共同作業によるものだ、と言える。

スロットマシンなどのギャンブルのための筐体は、マシンを設計する企業に言わせると「プレイヤー中心設計」で作られている。
これは、昨今のプロダクトデザインにおける「ユーザー中心設計(UCD)」そのものである。
ギャンブラーたちは、現実を忘れてゲームに過剰に集中する〈ゾーン〉体験を求めており、企業はそこから利益を得ている。その間をつなぐのが、デザインだ。

ロバート・ヴェンチューリがかつて『ラスベガス』で称賛した自由を謳歌する街並みは、今どう見えるだろうか?


『つながっているのに孤独』(ダイヤモンド社)シェリー・タークル

この本のテーマはデザインというよりもテクノロジーとされているが、事例で紹介されるたまごっち、ファービーといったロボットの設計について考えてみるのは面白いと思う。

筆者のシェリー・タークルは、精神分析を学んだアメリカの心理学者だが、一貫してテクノロジーと人間の関係性に興味を持ち続けてきた。
彼女が観察する子どもたちは、かつて発達心理学の権威たちが研究対象としてきた「人形遊び」とは根本的に異なる関係を、ファービーやたまごっちと結んでいる。

子どもは人形に対して自分自身の欲望(したいこと、なりたいもの)を投影して遊ぶ。子どもと人形の関係は、一方通行的なものと言えるだろう。

だが、90年代後半に登場したファービーやたまごっちなどのソーシャル・ロボットは違う。子どもが何かをすれば、それに対して明確な反応が返ってくる。ファービーは逆さまに持たれると「怖いよ」と鳴くし、たまごっちは餌やりを忘れてしまうと、最悪”死んでしまう”。

おもちゃに対して、インタラクションのある関係を結ぶ現代の子どもたち。この経験は、「生」や「死」に関する価値観を形作ることに影響する。

後半は、そうした経験をした世代の人々がSNSを介して結んでいる、現代のソーシャルネットワークへと話題が移る。
タークルは、親密性をテクノロジーで維持しようとすることは、人間関係が「単なる接続」になる可能性があると批判する。

本書の英題は『Alone Together』。
私たちはどうしても、人間関係をオンラインな接続に代替できないようだ。


『ウェルビーイングのつくりかた』(BNN)ドミニク・チェン、渡辺淳司

SDGsが世の中に広がった頃から一緒に目にするようになった「ウェルビーイング」というワード。具体的に何を指しているかというと、結構曖昧である。

だが、本書の筆者らは意味が曖昧でも、言葉として存在するだけで「良いウェルビーイング」「悪いウェルビーイング」について議論を作り、進めることができると評価する。

さて、私たちの日常生活を振り返ってみると、自分一人で何かを決断していることが意外と少ないことに気付かされる。
「お昼ご飯に何を食べるか」そんなことすら、実は過去の出来事とか、通勤中に目にした広告、他人との会話に影響されて意思決定をしている。

つまり、私たちの生活は他者やモノとの「相互作用(インタラクション)」でできている。

またしても登場したワード、「インタラクション」。

他者やモノに対して、私たちは一方的に介入するような関係ではなく、自身も変化しつつ相手に影響を与える、そんなフィードバックループの中を私たちは生きている。

ゆえに、「私」は常に「私たち」で生きている、と言える。

自分と他者の協働作業こそが、生活だ。そうした観点に立って、「良い」ウェルビーイングを考え、プロダクトやシステム、政策を考えること。
これが、筆者たちが掲げる「”わたしたち”のウェルビーイング」をデザインするということだ。

キーワードは「ゆらぎ」「ゆだね」「ゆとり」。
本書の後半は筆者らが実際に存在するプロダクトを紹介することで、「”わたしたち”のウェルビーイング」の理解を深めていく。
ページをめくりながら、ゆっくり落とし込んでいきたい。


文:メザニン広報室