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『ママ』 森絵都

ここ3年間で、5人ほどに言われた。

「離婚したら、結婚して?」

彼らは、私が喜ぶと思って言っているのだろうか。
言われるたびにただただかなしいこの心情を、理解などしてくれない気がする。

不快ポイントは3つ。
1. 「離婚したら…」というifで、私をつなぎとめようとしているということ。
2. もし離婚したとて、離婚原因が私のようではないか。
3. もし離婚したら奥様は多少なりとも寂しい思いをするはずなのに、かくいう彼は私という保険をかけている、ということ。

上記を鑑みても、「私のことを大切にしてくれている」なんて、誰が思うだろう。
自己中心的な男性像しか見えてこない。

そのようなことを考えながら駅へと向かい、電車で本を開いた。
森絵都さんの著作『ママ』である。

「ねえ、わかるかしら。かなしみには、ざっくりわけて、ふたつのタイプがあるのよ。ひとつは、重たいものが心にすみついて、はなれないタイプ。もうひとつは、心からすべてをとりあげられて、からっぽにされてしまうタイプ。重たいかなしみには、じきに、なれることもできますわ。時間をかければ、その重さにたえられるくらい、わたしたちは頑丈になれるかもしれない。やっかいなのは、からっぽのほうよ。こっちのかなしみは、ほんとうに、わたしたちをむしばむの。こじらせると、よくないことになる。とてもよくないことに」 (p.75-76)

解釈が誤っているかもしれないが、前者のかなしみについて「離婚したら結婚して、などと言っている夫」、後者のかなしみについては「その妻」がそれぞれパッと思い浮かんだ。
あくまで、イメージではあるが。
というより、ひどい男として私が認識したいだけかもしれない。

「離婚したら…」なんて、もう二度と言われたくない。
言われるのであれば、ifなど要らぬ。

「離婚した。好きだ」

この言葉がいい。

言われたい人は、いないけれど。

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『ママ』 森絵都 『出会いなおし』(文藝春秋、2017) 第3話に収録

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