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『裏切らないこと』 三浦しをん
「あんたは本気を貫く男にならなきゃいけない。簡単だよ。このひとだと思ったら、すべてを捨てて、すべてを捧げればいいだけなんだから」 (p.60)
これを読んで、
「ここまで本気で愛されたら、幸せだなぁ」
と思うときと、
「いや…ここまでの覚悟はこわい。逃げたい」
と思うときがある。
すぐに思い浮かんだ人が「あんた」だったら…。
うむ…やはりこわい。
「幸せになってね」
と穏やかに言って、足早に逃げる。
二番目に浮かんだ人が「あんた」だったら…。
「どうした?大丈夫?」と、笑ってごまかす。
三番目に浮かんだ人が「あんた」だったら…。
「ごめんね」と、素直に謝って、その場を去る。
ここまで考えたところで、私はこの三人の誰にもここまで愛されることは無いことに気付く。
本来ならばホッとしたいところではあるが、自身のくだらなさにゾッとする。
以前(と言っても2年ほど前だが…)は、「『すべてを捨てて、すべてを捧げれば』なんていいなぁ…」とキュンとしていたはずなのだ。
最近のわたし、全然ダメだなぁ…。
と思うのと同時に、そりゃそうだ。と思う。
最初に思い浮かんだ人も、二番目に思い浮かんだ人も、既婚者なのだから。
iPhoneが震えて、1通のLINEメッセージを知らせる。
二番目に思い浮かんだ人からだ。
「浮気ってなに?」
(中略)
「本気だと誓ったひとを裏切ること、かねぇ」 (p.54)
もうだいぶ前から、彼は「浮気」とやらをしていると思う。
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『裏切らないこと』 三浦しをん 『きみはポラリス』(新潮文庫、2011)に収録