デフレ脱却。
わが国の経済における課題として、国民総生産よりも物価と賃金は経済の健全性にとって極めて需要な要素で、その時の政治によって左右されるべきではない。国土が狭く資源が乏しい、しかも人口が多い国で暮らす国民にとって、生産供給のバランスや物価の動向は生活に直結する。
この30年間緩和策が導入されてきたが、2013年以降は大規模な異次元の金融緩和政策が行われてきた。この政策は経済成長を促すことだったが、国民の生活を圧迫し、経済の活力を奪う結果となった。そして、円の価値が下がり、物価が上昇した。そこで日本銀行は金融緩和を引き締め、利子の引き上げを始めた。
コロナ危機前の19年までは物価は上がっても、2%を下回っていた。しかし、22年の秋から物価が急速に上昇し、その後も持続的な上昇傾向が続いている。一方で賃金はごく僅かにしか上がらず、国民は耐乏生活を強いられ、さらに消費は大幅に低迷した。
インフレを抑制するには、政策金利の引き上げが有効とされており、今後の金融政策の動向に注目が集まっている。ただし、現在のように経済と景気が停滞している状況では、金利の上昇が個人だけでなく、企業の借入れにも影響を及ぼすのは避けられない。
こういった状況では金融の引き締めは企業の事業拡大や継続のための資金調達が難しくなり、事業の縮小や雇用の減少につながる。雇用が減少すれば生産が低下し、製品の売上は減少し、賃金の増加も期待できない。幸い、企業の内部留保は500兆円以上もあり、その活用と放出が求められている。
家計の消費動向を見ると、実質賃金は前年比でマイナスとなっており、消費性向も19年の水準を下回っている。それにしても、こんな時にデフレ脱却が錦の御旗になっているが、国民にはとんでもないことで、むしろ、大幅なデフレを切望している。
この1年ほどインフレ対策と円安対策の名目で、実は政府は消費税の増収と国の借金1200兆円の半減を狙って、デフレ脱却の大号令の下、官僚主義統制経済を強力に動かしていると頻りに思われて仕方がない。
そして、生産者や小売業者の意図とは関係なく、業界単位毎に3000品目も6000品目も一斉に値上げを行った。これに同調する経済界も価格転嫁の一点張りで、さらなる物価の上昇を促そうとしている。
その結果、供給と需要のバランスが崩れ、供給過剰となっている。この状況は生産者の利益を圧迫し、雇用や所得にも悪影響を及ぼす。24年度は需要の弱さから物価の低下基調が明確になると予想されるが、賃金を上げることが先決問題である。
でないと、消費は回復しない。