ー街にでてー #詩のようなもの
この四月五月は あめ降りばかり
二月三月は 雪と嵐ばかり
だから
暴風雨の予報を 信じ 信じたふりして
雑踏にまぎれ込み 百貨店の花崗岩に 耳をよせ
アンモナイトの 永い寂寥と小さな夢想を ききだそう
三葉虫に 太古の秘密を 打ち明けさせよう
「よしなさい むだなこと
きこえるのは 酔いどれディオニソスの ばか笑いだけ
その花束を 家にかざりなさい
ライラックよ あなたに お似合い
きっと いいことがある」
花売りむすめに化けた
アッティカのデーメーテールが 紫の束を 投げよこす
石は 語ろうとしないし
花をかざる場所には
褪せた写真と手紙が もう動こうとしない
「脳てんきな いかさま野郎!」
写真のひとは もういない
棲息てることに 疑いないが 冥界のひと
瞳をおおきくみせる 薬について ふざけて 解き明かし
つもった雪の 深さを こめかみにゆびをあてて 計ってみせた
手かがみだけで あわせ鏡を つくってみせた
それはそれは 颶風もない ふるさびた秋のこと
売れ残った ガラス瓶の底に たまった陽がさみしい
『夏になったら
バーデンバーデンで お目にかかりましょう って
メーストル伯爵夫人に招待されてるの でもね
どっちかというと 熱海のほうがいいの』
そのひとの悪ふざけは くるくるとわたしの 脳髄にあっていた
ニンフたちが唄い踊り
曼珠沙華が いつもいつも飾られていた
ゴスロリ服が手渡す チラシはいつも 潮風が重くしみている
静寂が失せた街のなかにも 写真のひとに にたひとはいない
どこにも いないから 頌え 口伝えられる
あたかも あやしい伝説のように
未練なんぞは 牛がえるのデザートに なってもう久しい
街を突き抜けるのは
赤いユーロビートだけ 緑色は この花束だけ
顔みしりの印僑が
たどたどし言葉で(ほんとうは日本語がわたしより上手い)
趣味の占い師をやっている
口じりだけで 笑い 会釈をかわす
にせジプシーに おおきく手を ふってみる
ああ、花売り娘は 本物かもしれないし
占いジプシーも 本物かもしれない
あめもなく はれ間もみえないが
きょうは六月一日 もう年のまんなか
では
帰ったら窓ぎわに ライラックを育ててみよう
バーデンバーデンで にせ日本人になるのも 悪くはないか