映画「シヴィル・ウォー」を観て
過日、Amazon Primeで映画「シヴィル・ウォー」を観た。
アメリカ合衆国が内戦状態に陥る近未来、陸路首都ワイシントンへ向かうジャーナリストたち。
若い女性カメラマン志望者を主人公とした成長(あるいは皮脱)の物語
まあ、人目をひくハリウッド映画の背景設定だが、ツッコミどころが多いような気がした。
合衆国から独立を目指すのが、カリフォルニア州とテキサス州なのか。大統領がなぜか任期3期目
両州のおおまかな政治的、文化、住民意識等はまったく正反対。合衆国憲法で大統領は2期が限度と規定されている。
このようなありえない設定で、合衆国内の混乱背景を間接的に表現したかったのかもしれないが……。また、数年前の議会襲撃事件やトランプの政治動向を踏まえた、現在の国内政治的分断と暴力主義を暗喩してかったのかと、考えるのは穿ちすぎでもないだろう。
ここからが本題のツッコミになる。
わたしのミリオタ面からはツッコミはないが、カメラ・写真オタとしては満載状態
まず、単焦点標準レンズ付きフィルムカメラ一台だけで、まともな報道写真がとれるのか?
使用カメラは、NikonFE2という古いフィルムカメラ。いまでも評価が高い名機の一つにはちがいない。
しかし、オートフォーカスなし、ズームなし、手動巻き上げ(モータードライブはつけてない)、ISO光感度自動変更なしなど。
現代のデジタルカメラからすると不便極まりない旧式フィルムカメラである。しかもフィルムは36枚撮り(長尺フィルムは入れていなようだ)で、フィルム詰め替えなしであんなに多くのシャッターチャンスをものにできない。
要するに、カメラファンからすれば、この映画のカメラマンは非常に非現実的である。フィルムカメラを使う戦場カメラマンの映画としては、『地獄の黙示録』にすこしだけ見えたカメラマンだろう。三台のフィルムカメラを肩と首から提げ、おのおののカメラには望遠、広角などのレンズを装着していたのをかすかに覚えている。
次に、撮影したとされる白黒写真と標準レンズの画角が違いすぎる。特にホワイトハウス邸内の狭い廊下や室内で、標準レンズだけではあの数人の被写体は撮れない(現像後修正したとしても)。
室内といえばISO感度の問題がある。人間の眼には十分にみえる室内照明は、カメラにとっては非常に暗い。
現在のデジタルカメラならISOを自動設定にするか8000くらいに増感すれば速いシャッターが切れるが、フィルムだとISO1200あたりの製品しかない。そのフィルムを増感現像すれば速いシャッターを得られるが、画質が使い物にならなくなる。低速度シャッターでは確実にブレる。
続いて、主人公の演技である。
カメラの構えが甘い。肘と脇が締まっていないので、屋外撮影でもブレてしまう。
フィルム巻き上げレバー操作が軽すぎる。フィルムが装填されていないことが明らかである。
そもそも、戦混乱時に供給不足になっているフィルムを多量に入手できるのか。フィルム現像所はあるのか。自家現像するにしても液剤は入手できるのか。
デジタルカメラという便利な機器があるのに、あえて父親の古い不便なフィルムカメラを選ぶのは、戦場カメラマン志望者としては失格ではないのか。
映画製作現場にスチールカメラマン、小道具係、撮影キャメラマン、監督をはじめとして、フィルムカメラの知識があるスタッフは多くいるはずなのだが、いったいどういう意図なのだろう。
反面、NikonFE2とい名機を小道具にするという点で、十分な知識がある上に強い拘りが垣間見られるのだが……。
わたしはこの映画を観て、NikonFE2が欲しくなった。
フィルム供給が緩和したら、フィルム撮影に復帰しようと考えている。もちろんこのカメラを使いたい。……中古市場で探したら、予想以上に高額だった。この映画のおかげでさらに値上がりするのではないか。