リサーチサイエンティストと大学の研究員を兼業。コンピュータビジョン研究者の素顔
LINEヤフーには、さまざまな領域で活躍するエンジニアが数多く在籍しています。シリーズ「Tech Innovators」では、社内だけにとどまらず社外でも活躍しているエンジニアや研究者にフォーカスを当て、社内外での取り組み内容や業界の魅力、LINEヤフーで働くおもしろさについて聞いていきます。
今回は、データグループ DS統括本部 4本部 Virtual Human Labチームの郁 青(Yu Qing)にインタビューを行いました。郁はリサーチサイエンティストとして、サービスのための研究開発や大学との共同研究などに従事。その研究論文がトップカンファレンスで採択されているほか、社外では東京大学の研究員も兼業しています。
この記事ではキャリアや社外での活躍、そしてその業界への影響について深掘りしていきます。また、LINEヤフーで働く環境が自身の成長にどのように寄与しているのか、さらに業務との両立についても聞きました。
プロフィール
研究成果を多くのユーザーに届けられる環境
― 自己紹介をお願いします。
Yu Qingといいます。2023年4月に旧LINEに入社して、現在はVirtual Human Labチームのリサーチサイエンティストとしてサービスの開発や研究をしており、論文執筆もしています。Virtual Human Labは人間の動きの生成・認識などを主に研究するチームです。LINEヤフーではデジタル上で人間の動作生成を必要とするサービスを開発しており、チームの技術をそのサービスに生かそうとしています。
― 入社の決め手を教えてください。
私は大学でコンピュータービジョンの研究をしており、博士課程を修了しました。その後、LINEヤフーでインターンシップに参加する機会を得られたのですが、Virtual Human Labチームで働いてみたところおもしろい研究に携われて技術の応用先がたくさんあるとわかったんです。
LINEヤフーは多種多様なサービスを開発・運営していますから、それらのサービスに自分たちの技術を組み込むことができます。また、その機能をたくさんのユーザーに使ってもらえます。働いている人たちの得意領域やバックグラウンドもそれぞれ異なっているため、各メンバーの良いところを吸収しながら、自分自身のスキルを向上させられるのも魅力でした。
― 入社後に書いた論文についても教えてください。
インターンシップ中に、Virtual Human Labチームでの研究活動の一環として、スケルトンベースのアクション認識技術の向上に取り組みました。この研究が実を結び、2023年にAAAI(AAAI Conference on Artificial Intelligence)の論文として採択された「Frame-Level Label Refinement for Skeleton-Based Weakly-Supervised Action Recognition」が誕生しました。近年、スケルトンベースのアクション認識は、各種のアプリケーションでリアルな人間の動きを生成する際の手間を減らすための重要な手法となっています。しかし、この手法ではフレーム単位で行動のラベル付けを行うことが必要で、大変な労力がかかっていました。
たとえば、「人がしばらく歩いてから椅子に座る」という映像の場合、各フレームに「歩いている」「座っている」といったラベルを付与する必要があります。この課題を解決するため、フレーム単位ではなく動画単位で「歩く」と「椅子に座る」というラベルを与えれば、それぞれの動きがどの箇所にあるのかを特定できる技術を研究しました。この研究内容を公開したことで、他の研究者の方々もベンチマークを作れるようになったため、世の中の技術的な進歩に貢献できました。
入社後、正式に取り組んだ研究は、2024年にCVPR(Conference on Computer Vision and Pattern Recognition)の論文として採択された「Exploring Vision Transformers for 3D Human Motion-Language Models with Motion Patches」です。3Dモーションデータを四肢と体幹ごとに小さなモーション単位に分割して学習させる「モーションパッチ」という独自の概念を導入することで、なんらかの特徴を持った人間の動きを画像検索のようにテキストから簡単に探せる技術の研究をしました。この研究で用いられているVision Transformers(ViT)は主に2D画像やビデオの解析に使用されてきましたが、この論文では3Dヒューマンモーションデータに適用しています。
そして、最近ECCV(European Conference on Computer Vision)の論文として採択されたのが「Chronologically Accurate Retrieval for Temporal Grounding of Motion-Language Models」です。3Dヒューマンモーションと自然言語(動作の説明や指示など)を関連付ける「 Motion-Language Models」では、動作とテキストが時間的に正確にリンクされることを保証するのが難しい課題がありました。
この研究では時間的グラウンディングという概念に基づくアプローチを行うことで、動作とテキストの時間的順序を正しく理解できるようにモデルを訓練します。研究内容をこうした論文として発表したことで、世の中にプラスの影響を与えることができましたし、自分自身やLINEヤフーのプレゼンスを高められました。
社内・社外で切磋琢磨し、日々成長する
― 研究を行ううえで、LINEヤフーの環境のどういった点がプラスになっていますか?
チームのリーダーやメンバー、そしてチーム外のメンバーもみなさんとても優秀で、何か困ったことがあればすぐに相談できます。論文執筆の際にもみんなで内容を共有して、共同執筆やディスカッション、複数人で添削し合うようなことができます。また、LINEヤフーとして取り組み意義がある研究分野として、仕事の時間配分や研究のテーマ選びも個人の裁量に任されています。会社としての目標や方向性に沿ったテーマのなかから、自分が興味を持った領域を選べるので、研究者にとってはやりがいが大きく働きやすい環境です。
AI・機械学習などの研究をする際にはGPUのような計算資源が必要ですが、LINEヤフーではこれを自由に使えます。論文が採択されれば、学会に参加するための旅費もサポートしてくれます。
これは、LINEヤフーの持つ「働く人たちの実力を信じて、自由度の高い環境を提供することで力を発揮してもらい、成果を出しやすくする」文化が影響しているように思います。逆に言えば、その体制で結果を出せるくらいに優秀なメンバーをきちんと集めて、個々人の適性のある役割をアサインしていることでもあります。
― 大学の研究員を兼業されているそうですが、この経緯や業務内容についても教えてください。
私は東京大学の大学院で博士課程を修了しましたが、その後も研究室とつながりを持っておきたいと思いました。研究員になれば大学の教授や学生とも関わり続けられますし、最先端の技術をキャッチアップできます。会社の業務では基本的に自分の専門領域のみにフォーカスしますが、大学ではより幅広い分野の研究をしています。それらの知識を得ることで、業務にも応用できると考えています。
主な活動としては、各種のミーティングへの参加や学生の研究のサポート・ディスカッション、学生の書いた論文の添削・指導・支援をしています。また、こうした活動を行う過程で、私があまり詳しくない分野について、教授や学生から意見を求められるケースもあります。そんなときは、情報をキャッチアップするために自発的に学習をするので、自分自身の成長のきっかけにもなっていますね。
そして、LINEヤフーの仕事と大学の研究員の仕事とのバランスを取るうえでも、LINEヤフーの環境はすごくプラスになっています。LINEヤフーはフレックスタイム制であるため、上長の理解やLINEヤフーでの研究に影響がない前提のうえで、どの時間帯に働くかを自分で調整できます。これを活用して、たとえば昼間の時間帯に中抜けし、数時間ほど大学側の会議に参加して、その後に会社の業務に取り組むようなケースもあります。
研究者が「自分の注力したい領域」にフルに取り組める会社
― 他の会社と比べて、LINEヤフー固有の魅力はどのような点にありますか?
先ほどの話と重複する部分もありますが、やはり優秀なメンバーがそろっていることです。それから、多種多様なサービスを運営しており、それらのエンドユーザーの数も膨大であるため、自分自身の研究の成果を多くの方々に活用してもらえます。これほどの規模のサービスを持っている会社はそうそうないので、これはLINEヤフーならではの魅力ですね。
また、個人の裁量が大きいことや働く時間帯を柔軟に調整できることを話しましたが、それに加えて研究者がきちんと研究にフォーカスできる環境であるのも良い点です。世の中には、会議がたくさんあって研究や開発に充てる時間があまり取れない会社や、論文を読んでインプットする時間を設けてもらえない会社もあります。LINEヤフーは、働く人が自分の仕事や研究に集中できるような環境作りを大事にしています。
― 仕事における今後の目標を教えてください。
私たちのチームは、人間の動きにフォーカスした研究を行っており、この技術を応用したプロダクトを開発しています。これにより、魅力的なキャラクターの動きを作り出したりサービスの利便性を高めたりといったことを実現できたら良いと考えています。今後、このプロダクトをさらに多くの人々に届け、広く活用されることを目指しています。
私たちは生成AIのような最新技術を扱っているので、こうした分野においてはまだ世の中で先行研究がないなど発展途上の領域もたくさんあります。研究者として、それらの発展に取り組んでいくのが目標ですね。私たちの研究をプロダクトに組み込んでいくことで、あまり技術に詳しくない方であっても、おもしろいコンテンツを作れるような世界観を実現していきたいです。
― LINEヤフーを受けてみようと思っている人にメッセージをお願いします。
自分は入学から博士課程の修了までトータルで10年近く大学にいましたが、「就職後は会社でうまくやっていけるのだろうか」「会社でも自分の好きな研究を続けられるのだろうか」と不安な気持ちもありました。でも、実際にLINEヤフーに入社してみると仕事がとにかく楽しくて、自分の成長を日々感じられるような環境でしたので、ぜひみなさんも入社してほしいです。
最後に
LINEヤフーでは現在、2026年4月新卒入社のエントリーを受付中です。記事を読み興味を持ってくださった方は、ぜひ採用ページからのエントリーをお待ちしております。