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クリエイティブ組織の成長支援 「スキルマトリクス」の取り組み 〜運用編〜
はじめに:前回の振り返り
こんにちは、OPSチームのリーダー加峯です。
前回はスキルマトリクスの「設計編」と「導入編」についてお話しました。設計編ではスキルマトリクスの基本的な枠組みについて、導入編ではその導入プロセスに焦点を当てました。それぞれの記事は以下のリンクからご覧いただけます。
今回は「運用編」をお届けします。スキルマトリクスを運用することで、私たちの組織にはどのような変化があったのか、そして実際に取り組んでみて気づいた点や予期しなかった効果について詳しくご紹介します。また、今後のアップデート計画についてもお話ししたいと思います。
この記事が皆様の組織運営に役立つヒントとなれば幸いです。
運用してから気付いた課題
認知バイアスの影響
スキルマトリクスを運用開始後、私たちはいくつかの課題に気付きました。
その課題の多くは、主に認知バイアスを要因としたものでした。
認知バイアスには様々な種類がありますが、端的に言うと「個人の経験や先入観によって認知の歪みが生じ、合理的な判断ができなくなること」をここでは意味します。
では、実際にどんな影響があったのかを具体的に説明していきます。
他者採点のばらつきとその原因
特に顕著に現れていたのは、採点者によって生じる採点のばらつきです。採点者へのヒアリングで明らかになった要因として、採点者がメンバーの自己採点を参照しながら他者採点をするが故に起こる「アンカリング」という認知バイアスが影響を及ぼしていました。アンカリングとは、人が最初に得た情報に固執し、後の判断がその情報に引きずられる心理的傾向を指します。この効果により、採点者間での評価に一貫性が欠ける結果となっていました。
さらに、複数の採点者が異なる場面での情報をもとに判断することで、同じスキルに対する評価に大きなばらつきが見られる傾向もありました。これは「利用可能性ヒューリスティック」が影響している場合があります。利用可能性ヒューリスティックとは、人が記憶に容易にアクセスできる情報を基に判断を下す傾向のことで、より記憶に新しい、または印象深い情報が評価に大きく影響を及ぼします。
このバイアスを避けるためには、採点者同士が一つの視点だけでなく、複数の視点から情報を得て総合的に評価することが重要です。採点者が多様なケースを考慮に入れ、バランスの取れた評価を行うことで、一貫性のある公正な採点が可能になります。
このように、採点基準を設けた上での5段階評価というシンプルなツールであっても、実際に評価を行ってみると、それぞれの採点のやり方や採点基準の捉え方で個人差が生じやすいことがわかります。
管理職者によるフィードバックの個人差
個人差が生じやすいのは、管理職者による採点後のフィードバックにも現れていました。
メンバーの動機づけと目標設定が、しばしば管理職者の個人的な信念やメンタルモデルに影響され、メンバーの強みや特性よりも改善点に焦点が当たるケースがありました。
本来注目すべきは、メンバー個々の強みや特性であり、管理職者は、メンバーがそのスキルをより高められるように支援を行うのが役割です。
目標に紐ずく動機づけを行うのはいいですが、管理職者が持つ固有の信念やメンタルモデルがフィードバックに色をつけ、メンバーの成長を支援する代わりに、無意識のうちに自らの価値観を押し付ける可能性があります。これにより、メンバーの本来の強みや興味を見過ごし、個々の能力開発が偏る恐れがあります。そのため、管理職者の個人的な信念を排除し、より客観的な視点でメンバーの動機づけを行うことが重要です。
「目線合わせ」の重要性
このような課題の解決のためには、採点者や管理職者の「目線合わせ」を徹底することが不可欠です。そのための方法として、採点を行う前の採点者に対する説明会や研修会を実施し、評価基準や採点ルール等について、あらかじめ認識の共有化を図っておくと効果的です。
採点を行った後も、採点者の目線合わせ会議を開催し、採点者に“甘辛”が発生していないか確認し、採点調整を行うのも大事です。こうした会議を繰り返し実施することで、「このような場合にはこういう評価になる」という自社の“相場観”が醸成され、次第に採点者の目線が揃うようになっていきます。
スキルマトリクスの意外な効果
想定通り、スキルマトリクスの導入によって、個人の目標設定やチームのスキルアップが定量的に行えるようになりました。具体的な数値目標を設定することで、メンバーは自身の成長を明確に把握し、チーム内でのスキル向上策もより計画的に実行可能となり、組織全体の成長を促進しています。
しかし、これ以外にも想定していなかった意外な効果も現れました。
スキルの多様化によるマインドセットの変化
クリエイティブ業務においては、従来、表層的なテクニカルスキルが重視されがちでしたが、スキルマトリクスを通じてヒューマンスキルやコンセプチュアルスキルの重要性が認識されるようになりました。これにより、メンバーはコミュニケーション能力や問題解決能力など、より幅広いスキルの向上に取り組むことができ、マインドセットや価値観のレベルアップにも寄与しています。さらにこれによって、今まで見えていなかったメンバーの個々の特性や強みも明らかにすることができました。
組織全体の育成課題の洗い出しと人材活用の最適化
見えていなかったメンバーの個々の特性や強みが明らかになることは、組織全体の成長においても重要で、採点結果をチーム別や職種別に集計することで、チームごとのスキルの偏在状況も「見える化」され、必要な研修プログラムの策定、人材登用の最適化を実現し、組織効率の向上にも繋がっています。
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今後の展望:人材育成の仕組みへ
スキルマトリクスの導入は、個々の特性や強みを可視化し、目指すべき成長の方向性を明確にする初歩的なステップとして機能しています。今後の展望としては、この基盤を活用して、より体系的な「人材育成の仕組み」を構築することです。具体的には、キャリアパスを明確に定義し、メンバーが自身の成長を実感できるような環境を整え、人材の確保、育成、そして定着へと繋げていくことを目指しています。そのために現在は職種/職能シートの作成とキャリアマップの設定に取り組んでいます。
職種/職能シートの作成
職種/職能シートは、各職種や職能ごとに推奨されるスキル、そのレベル、そして職務内容を簡潔にまとめたツールです。このシートを使用することで、個々のメンバーやチームリーダーは、自分自身または部下の現在の能力レベルを正確に把握し、次の段階へ進むために必要なスキルの欠如を具体的に識別できます。また、職種/職能シートは、求められるスキルセットを明確に示すことで、新たな人材採用時の基準としても役立ちます。これにより、採用プロセスがより効率的かつ効果的になり、組織にとって最適な候補者を見極めることが可能になります。
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▼アドウェイズさんの事例をとても参考にさせてもらっています。
キャリアマップの設定
また、職種/職能シートと合わせてキャリアマップを設定することで、キャリアの道筋に沿ったメンバーの成長を支援することが可能になります。
このマップは、モデルとなるキャリアと能力開発の標準的な道筋を示したもので、キャリアアップする際にカギとなる経験や実績、関連する資格・検定等が記載されます。
自分がどこにいて、どこに行きたいのかを一目で理解できるようにするものためのもので、自分自身のキャリアをしっかりと握り、確実なステップで前進するための実践的なガイドとして活用を想定しています。
キャリアマップは企業によって様々ですが、厚生労働省の公開してるサンプルがイメージとしてわかりやすいかと思います。
まとめ:継続的運用が大事
新しい技術や知識の迅速な習得が必要とされる現代において、人材育成は一層の重要性を帯びています。スキルマトリクスは、その複雑な課題に対処し、組織の成長と個人の能力開発を支えるための基盤となりました。しかし、スキルマトリクスの効果は短期間で顕著に現れるものではなく、医学に例えるならば、時間をかけて体質改善を行い、根本的な原因を解決して徐々に効果を発揮する東洋医学的な施策です。それ故に、中長期目線での継続的な運用を行うことが重要です。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました🙌
私たちもまだまだ途上にありますが、業界全体でも、高度クリエイティブ人材の育成と活用が求められている今、こうした事例や知見を公開することが業界全体の発展にも繋がり、より強固な人材育成の仕組みへと繋がると思っています。
次回のLINEヤフーコミュニケーションズ クリエイティブ部の記事もお楽しみに。