二匹の蟹
蟹が食べたくて
生け簀の中を見ていたら
逃げ出そうとして
他の蟹を踏み台にし
暴れている蟹がいた
中には大勢の蟹を足元に
頂点に君臨する蟹もいて
それでも高さが足りず
もがいていた
目の前の水槽には
大きな毛蟹が二匹
なんとなく
下の蟹が上の蟹を
持ち上げようと
脚を動かしているようで
恋人か夫婦か
阿吽の呼吸で
上の蟹の体を持ち上げ
コツを掴んだ二匹は
縁に脚をかけた
このまま逃げ出すのではと
見守っていたら
お店の方が水槽に沈めた
それでもまた
懲りない二匹は
タイミングを合わせ
脱走を試みていた
飛び出したところで
足元に広がるのは
大海ではなく
牡蠣の生け簀なのだが
生きたいと思うのは
人間も蟹も同じ
冬になり寒くなると
蟹と日本酒が恋しいと思う
今日もわたしは生かされ
どこかに逃げようと
他の蟹に脚をかけ
もがいている