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デザイナーと共創するために必要な発注者の心構え

「デザイナーに依頼すればいい感じにまとめてかっこよく仕上げてくれるんでしょ?」

ホームページ、ロゴ、プロダクト等、事業をやっているとデザイナーに何かを依頼するタイミングがありますが、こんな感覚で発注している人はいないでしょうか。

冒頭のこれは、実は過去に自分が持っていた感覚です。今になって改めて振り返ってみると自覚できるのですが、当時の自分は口では「デザイナーさんを尊重して」と言いつつも、心の奥底では「何とかいい感じにしてくれるのがデザイナーの仕事では?」という思いが根深くあって、それが表面化したときには結果現場を混乱させてしまったり、デザイナーさんを困らせてしまったりした反省があります。

というわけで今回は、ここ2年デザイン会社やデザイナーさんとやり取りが増えてきた石川が意識しているポイント・心構えを備忘録的に書き記してみたいと思います。既にデザイナーさんと協働されている方にとってはとても初歩的な話かと思いますが、デザイナーさんとまだ一度もやりとりしたことがなく、まさにこれから新しい挑戦を始めようとされている方のご参考になれば幸いです。


その1 「デザインは課題解決である」という前提の理解

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あまりにも有名なジョンマエダさんの名言の引用ですが、そもそもデザインは課題解決をするためのものであるという前提を認識する必要があると強く思っています。デザインが課題解決の手段である、ということはつまり、まずは課題ありきということです。

「なんとなく可愛いデザインにしてほしい」
「売れそうな目を惹くものがいい」
「優しい感じの印象にしてほしい」

自分も駆け出しのころ、デザイナーさんに対して平気でこのような感覚でお願いをしてしまっていましたが、このような表層的な課題の切り出し方では感想レベルでしか評価ができない表層的なデザインにしかアウトプットできないはずです。もちろん世の中には、問いを起こすところから伴走して丁寧にやってくれるデザイナーさんやコンサルタントの方もいらっしゃるのかもしれませんが、当事者の熱量無くして良いデザインは生まれないと思っています。まずは自分が問いを起こして解決したい課題を言語化するところがスタートです。繰り返しになりますが、決して「なんとなくいい感じにしてほしい」というスタンスで依頼するべきでないと考えています。


その2「デザイナーがなんとかしてくれる」は発注者の怠慢。オリエンは発注者の義務。

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「デザインの出来の7割はオリエンテーションで決まる」

デザイナーへの依頼のお作法を全く知らなかった石川にそう言ってご指導くださったのはPLUG社の小川さんです。

「オリエンテーションとは、デザイナーに対して、これからデザインしてもらう商品がどういった商品なのか、マーケティング目標、コンセプト、競合の状況はどうかといった、デザイン制作に必要な情報を伝達する大切なステップです。」

なんとなくの現状とイメージだけ口頭で伝えてあとはデザイナーさんのセンスにお任せ、なんてやりとりも周りをみていると結構多いのではないかと思っていますが、オリエンは重要です。先述の通り、デザインは課題解決の手段といえるのであれば、デザインを通じて何を解決したいのか、どうなりたいのか、という発注者のビジョンは不可欠ですし、言語化した課題というのを体系的にまとめて説明して目線を合わせなければ、課題解決のための良質なデザインは生まれないと思っています。そもそも、課題は自分達の中にしかありませんし、それを棚卸せずにデザイナーに丸投げしていては的を射たデザインにはなり得ません。スタート地点は発注者であるべきです。


その3 アカウンタビリティ(答責性)の力

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もちろん、いくらオリエンを丁寧にやったとしても、100%デザインが納得いくもので出来上がってくるとは限りません。デザインはそもそも言語化数値化できない事象を最適化するものであり、自分のイメージと離れたものがアウトプットとして上がってくることもあります。

この際に重要なのが、「デザイナー側の目線に合わせて修正点とその理由を適切に説明することができる力」だと考えています。事業のイチ担当者が専門職であるデザイナー側と同じ”センス”を持つのは当然難しいのですが、ただそれでもデザインの概念やロジック、知識を身に着けることは可能です。「センスは知識からはじまる」という水野学さんの本のタイトルにもある通りですが、デザイナー側が意図を汲み取ることができる程度には、発注者側もデザインという領域のテーブル乗る努力は必要です。それがつまりアカウンタビリティであり、その有無がデザインのブラッシュアップの力に直結していると感じています。


その4 発注者-受注者の垣根を超えること

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最後は個人的な感想に近い話です。

「以後、『様』づけで呼ぶのは絶対にやめてください。」

これは僕が先方の担当者と最初と必ず必ずやり取りする会話ですが、デザイナーさんとお話をする際には口頭でもメールでもチャットでも、絶対に「様」と言わないようにお願いをしています。

他の領域でももちろん同様のやり取りはあるのですが、特にデザインに関しては一層この点を意識するようにしています。繰り返しになりますが、デザインは言語化できない事象を最適化することで課題解決するものであり、そこに少しでも優越的地位が発生すれば最適化しないデザインが出来上がってしまうためです。ただでさえデザインというものは優越的地位の濫用による無理無体な指示や的外れな変更が発生しやすいものであり、その点を発注者側が強く理解したうえで対等で議論しようとする姿勢は何よりも大切だと信じています。


まとめ

偉そうに高説をたれてみましたが、自分ももちろんまだまだデザインに関する知識は不十分であり、いまだデザイナーさんとのやりとりでは的外れで非常識な発言も散見されることがあると自覚しています。しかし、こうした失敗と気づきを繰り返してきたからこそ、今は少しは対等に近い関係でデザイナーさんとお話ができるようになったかなと思っています。どうせやるなら、「クライアント」という淡泊で冷えた関係ではなく、楽しく共創していける「パートナー」とデザイナー側に思ってもらえるようになっていきたいものです。

そして、デザインの重要性が高まるこの時代で、事業側がデザインに関する知見や理解を深めた上で問いを起こし、デザイナー側がそれに応える形でその力を存分に発揮できる世の中に向けて、この記事が少しでも何かの足しになりますよう。

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